2021/05/09

「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」を観る

WOWOWで録ってあった「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」を観た。90年代、韓国から北朝鮮へスパイ活動していた男。その実話を基に描くポリティカルサスペンス。

1992年、北朝鮮の核問題で世界的緊張が高まっていた。軍の将校パクは国家企画安全部の命を受け、全てを捨てスパイとなった。目的は北の核開発情報を得る事。民間人となり、貿易商として北朝鮮関係者に近づくパク。やがて金正日と直接パイプを持つリ対外経済委員会所長と会う機会を得る。

まさに韓国版インファナルアフェア。アクション無き国家間の攻防戦。だがその末路は国のエゴに翻弄されてしまう。メガネにコート姿のパクはまるで「孤独のグルメ」の五郎さん=松重豊のよう。笑みを浮かべつつ冷静に分析、事を運んでいく。そして金正日との謁見。その緊張感は画面を通しビンビン伝わってくる。

全体の緊張感を支えるのは、パクを演じるファン・ジョンミンの巧さ。そして北朝鮮を模したロケ。ピョンヤン入りしてからの風景は本物(に思えてしまうほど)。謁見をコーディネートしたリ所長。そしてパクとの関係性は彼らの顛末、国を思う気持、東西分断への希望を含めて反映されているのだと思う。

時の権力者、国に翻弄される組織は世界を問わず。選挙のためなら隣国との裏取引、国際紛争も辞さない。「ハウス・オブ・カード」のような話が実際行われていた。ここ数年の日本も同じなんだろう。ただ韓国のような検察による摘発、自浄作用は見られないようで悲しい。

映画として際立つリアリティー。やたら女性関係を持つハリウッド産スパイ映画と一線を画す。確かに最後の部分はフィクションだろうが、そんな事は気にならず。将軍様以外の主要人物に何かしらの感情移入をしてしまう。間違いなくサスペンス映画の傑作。

210509_01

 

| | コメント (0)

2021/05/08

「JUNK HEAD」を観る

今日は映画「JUNK HEAD」を観てきた。全編ストップモーションアニメによるSF作品。

人類は環境破壊と永遠の命の代償に生殖機能を失った未来。最上層にいる人類と地下に住むマリガンと呼ばれる生命体。マリガンの生殖能力に注目した人類はある男に地下へ向かう任務、DNA採取を依頼。だが地下移動中に体を失った男はマリガンたちに機械移植を受ける。そして男の冒険が始まるのだった。

前半はとっつき難かったが、徐々に世界観、物語の背景が見えてくると惹き込まれる。無粋な主人公の顔も様々な出来事を経て多彩、表情よりもボディーランゲージ。そこをストップモーションで持ち味を活かしつつ「ターミネーター」や「ロボコップ」に比べればコマ数は多く滑らか。

キャラデザインは「スターウォーズ」や「エイリアン」の影響を受けている感じ。ただデザイン上、凶暴さとシンプルさが動かす上で丁度良かったのでは、と想像。また残酷描写もストップモーションがいい塩梅に滑稽な印象に変えてくれる。一箇所だけモザイクが入るが、多分ああいう事で自主規制なのだろうと多くは語らず。

全編字幕、謎の言語が飛び交う。それでいて後半における主人公たちの友情、ラスボスとの死闘は見どころ。そしてエンドロール、実はここも色んな意味で大きな見どころとなっている。三部作構想もあるようでそこも「スターウォーズ」的。この作品は監督の想像力と根気の賜物。 鑑賞一度目よりも二度目のほうが味が出てきそうな小品だ。

210508_01

| | コメント (0)

2021/05/04

マ・ドンソク主演「悪人伝」を観る

WOWOWで録ってあったマ・ドンソク主演のサスペンススリラー「悪人伝」を観た。連休最後に兄貴の映画を注入。本国No.1ヒットに異論なし。兄貴の映画らしく徹底して男臭く、しかも怖い。物語は想像を超えて怒涛の展開で魅せていく。

2005年韓国。連続猟奇殺人事件が続く中、犯人を追うチョン刑事。だがチョンはヤクザのボス、ドンスの経営するカジノでひと騒動起こすような男だった。そんなある夜、ドンスはナイフで刺される大怪我に見舞われる。ドンスは連続殺人犯に襲われたのだ。組織を使い、犯人を捜すドンス。ドンスを見舞ったチョンは彼の車にある殺人犯の痕跡に気づく。

物語もさることながら、ドンスとチョンの関係性が面白い。それぞれに違う立場。どちらが悪で正義か。だがそんな彼らの価値観を超える殺人犯が彼らを一つにする。三者三様、追い詰める者に逃げるどころか、本能いや信念に走る者。原題は「The Gangster, the Cop, the Devil」。三人のキャラが立ち、対等な立場と駆け引きで物語が進む点もいい。

特に物語としての面白さは中盤以降にある。一堂に会し、犯人を追い込んでいく描写のテンポの良さ。テレビのニュースを見てからのテンポの切り返し。傘を見たドンス=マ・ドンソクの表情に様々な思い、執念を感じる。全編を通し彼の持ち味、絶対的な存在感が際立つ。

チョン刑事を演じるキム・ムヨルも負けていない。完全なる正義ではない男。だからこそ対局の男と手を組む事を選ぶ。チョンの執念は終盤ドンスの決意を促していく。エンドロール前、それにしてもドンスの表情が不気味だ。

シリアルキラーを演じるのはキム・ソンギュ。「犯罪都市」でも兄貴と共演していたが、別のベクトルでみせてくれる。どこか「セブン」のジョン・ドゥを思わせる理不尽さ。殺しても死なないところはマ・ドンソク兄貴の相手に申し分ない。

W座で小山薫堂さんが「韓国映画の勢い」をコメントしていたが、確かにそれを表すような作品だと思う。ただ何より、兄貴の映画は面白いものが多いよね。スタローン製作でハリウッドリメイクも決定。間違いなくオススメ。

210504

 

 

| | コメント (0)

2021/05/02

「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」を観る

アマプラで独占配信されている「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」を字幕版で観た。過去、オスカー絡みのAmazon Movieは「マンチェスター・バイ・ザ・シー」があるが、本作も6部門がノミネート。タイトルにちなんだ音響賞に加え、脚本賞も獲得している。

メタルバンドのドラマー、ルーベンは突然に聴覚を失ってしまう。自暴自棄になるルーベン。ボーカルでガールフレンドのルーはそんな彼を聴覚障害者の自助グループに連れていく事に。面会したのはリーダーのジョー。ジョーはルーベンがかつて薬物依存であった事を聞き出す。そして外界を断ち切り、音のないルーベンの生活が始まった。

この作品に興味は持ったのは、小さい頃から健常者の幼馴染みが手話で聴覚障害者の両親と話す姿を見てきたから。もちろん本作のルーベンと立場こそ違え、コミュニケーションの難しさは痛感してきた。コミュニティーの違いは互いの理解で成り立つが、ルーベンを通しその難しさを擬似体験させる。

ルーベンの気持ちは痛い程に分かる。五感の一つを失う事、まして成功に手が届いた仕事の糧の喪失感は想像にし難い。ジョーがかつての依存を察知して、ルーベンをろう学校の子供たちに近づける。孤独に苛まれる中、一人の子供とのコミュニケーションがルーベンの心、無音の世界を開いていく。

ただこの映画の素晴らしいのはそこで終わらない事だ。ルーベンがルーとの関係にとらわれ、大きな決断をしていく。タイトルはその点で意味深い。エピローグ、ルーベン=リズ・アーメッドの表情は大きな山を超えた感が伝わってくる。決してハッピーエンドと言い難いが、ルーベンの成長が垣間見えてくる。

そんな物語もさることながら、オスカー授賞通りに音響が素晴らしい。この映画、配信スタイルからもヘッドホンでの視聴を薦める。冒頭の生活感、対比するようなその後の生活音の違い。そして物語が結に向かう中、ルーベンの決断に至る葛藤、そこを含めた感覚は言葉にし難い。それを伝える事、映画というものの素晴らしいところだと思う。

20210502-91125

 

 

| | コメント (0)

2021/05/01

「第93回アカデミー賞授賞式」を観る

210501_01

WOWOWで放送された「第93回アカデミー賞授賞式」(字幕版)を観た。コロナ禍で例年の2ヶ月遅れの開催となった今年の授賞式。L.A.ユニオン駅特設会場をメイン会場に内外をリモートで繋ぐ。本番組前に歌曲賞のノミネート紹介を行い、エンタメ性は極力排除した授賞式となった。

MC不在、クエストラブがDJを務め、アカデミー賞関連の曲を流すちょっとしたセレブパーティー。ノミネート紹介も例年なら1シーン挿入されて候補者を映すが、それもなし。候補者の紹介は20秒程に留めて賞を発表していた。

そして大きく異なったのが、主演賞、監督賞、作品賞の発表順。最後に作品賞発表が通例だが、主演賞と順番が入れ替わった。また監督賞も前半に組まれ、昨年の監督賞ポン・ジュノが韓国からリモートで登場。今年の監督賞は「ノマドランド」中国出身のクロエ・ジャオ監督へ。時代はアジアからアジアへ。ただここに日本人の姿はない。

派手さは無いが、受賞者から琴線に触れるコメントが多い。時に可笑しく感動的。編集賞プレゼンターのハリソン・フォードが試写会のエピソードを披露したかと思えば、「ブレードランナー」製作時の皮肉が込められていたのが可笑しい。

追悼のコーナーでは例年以上に多くの方を取り上げていたが、コロナ禍ゆえか。007関係者もたくさん亡くなったのだな。ショーン・コネリーとチャドウィック・ボーズマンの写真でコーナーは締められていた。

授賞式常連、フランシス・マクドーマンドとグレン・クローズの存在感が目立つ。ただそれ以上に助演女優賞のユン・ヨジョンが際立っていた。作品の中と普段と差が無いような人柄。製作総指揮で賞のプレゼンターのブラット・ピットもタジタジだったようだ。

出席者はワクチン接種が必須だったようで、授賞式中はマスク非装着。それでもソーシャルディスタンス厳守。昨年の反トランプ色と反し、アメリカ官民でコロナ禍と対峙する様相が授賞式から見えた。そんなアメリカとて今現在の接種率は国民の3割程でしかない。

日本は菅が、官がダメだから、民がついてこないんだよ。先が少しだけ明るくなったアメリカに比べ、日本は真っ暗闇。そんな印象を持たせた今年の授賞式でした。

210501_02

| | コメント (0)

2021/04/21

「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」をおかわりする

ふたたび「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」を観てきた。当初目的だったIMAXが全てコナン新作に奪われてしまい、仕方なく通常スクリーンで再見。公開後、本作絡みで色んな情報が出てきてその答え合わせもある。ただそれを意識したのも最初だけ。二度目のシンエヴァはやけに沁みた。

冒頭のパリ戦。マリのセリフ「第4波は多勢に無勢」はまるで今、この瞬間を物語るよう。彼女の口ずさむ歌は全て昭和生まれ。何気に感じる昭和感はマリのせい。新劇場版は宇多田ヒカルのED曲を除けば、スコアも含めて昭和の曲が多い。スコアは鷺巣詩郎一色だが、楽曲セレクトは監督が知った曲を使うタランティーノ的アプローチだと気づく。

余談だが、吉田拓郎さんやユーミンさんがそれぞれのオールナイトニッポンGOLDで、自分の曲がシンエヴァで使われている事に感謝を述べていた。特に拓郎さんは世代を超えて歌われる事こそ上京する理由と結んでいただけに、さりげない曲の使われ方と相まってリスナーとしても感慨深い。

もちろんNHK「プロフェッショナル」を見た後だから、アングルのこだわりに目が行く。戦闘シーン以外は止め絵風のカットは多いが、庵野さんの言う通りに飽きさせない。それだけに第三村のシーンはセリフ、そのやり取りに聞き入ってしまう。ここで観客の心を動かさなければ、シンジは最終決戦での覚悟に至らないだろう。シンジ=観客の物語でもあるから。

エヴァとは成長と覚悟の物語。そもそも成長するとは覚悟が必要。特にシンエヴァで描かれるのは責任を持つという覚悟だ。ミサトや加持の最後の決断は子供たち、家族や同志のために身を投じていく。いつの間にかシンジではなく親目線でエヴァを観ているとは。シンジを抱きしめるミサトを見てつい涙腺が...一度目の鑑賞では泣かなかったのに。

現実、今はコロナ禍。仕事をする、家族を守るのも簡単で無くなった。そのための覚悟は持っていても、もっと大きな力がそれを許さない。本来覚悟を持って欲しいのは政府や社会だ。第4波と1年間無策の歯痒さ。いまだオリンピックと聖火リレーに現(うつつ)を抜かす背景、そんな気持ちが交錯してつい悲しくなったのかも。

さて世間ではゲンドウが吐露し過ぎと言われる点だが、今回観るとそうは思わない。テレビシリーズ、旧劇とシンジ以外、救済されているとは言い難かった。その中で人類補完計画の主犯、ゲンドウの真意を引き出す事こそ、シンジの成長と言えるのではないか。第三村でケンスケがシンジに問うセリフあっての成長と覚悟。

確かにシンエヴァは旧劇のような驚きは少ない。あの映像と衝撃には敵わないから。ただ旧劇に無かったもう一度観たいと思わせる何かがある。繰り返しの物語と言われたエヴァに「気持ち悪い」と突き放されて終わった旧劇。旧劇と同じ結論もそれを大きく超える清々しさ。実はシンエヴァとは我々の成長を映す鏡ではないだろうか。[終劇]
210421_01

 

 

 

 

| | コメント (0)

2021/04/18

「おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!」を観る

日本映画専門チャンネルで放送された「おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!」の録画を観た。1986年公開の夏休み映画。おニャン子クラブブームの集大成。昭和アイドルといえばキャリアの頂点は映画。しかも「クライマーズ・ハイ」等でおなじみの原田眞人監督若き日の作品でもある。

横浜スタジアムでのコンサートを控えたおニャン子クラブ。リハーサルにレコーディング、番組収録に励む日々。一方、横浜スタジアムを目指す熱狂的なファンたち。だが同じコンサートでおニャン子たちの命を狙う者たちがいた。そして運命のコンサートの日の夜を迎える。

プログラムピクチャーらしく上映時間は78分と短い(当時同時上映「そろばんずく」)。おニャン子クラブのドキュメント(モキュメンタリー)を軸に、二つの物語を絡めた。たぶん原田監督らしさがあるのは関根勤演じる謎の男の物語なのだが、平板なおニャン子クラブのドキュメントと比してその怪演が目立ってしまう。この頃の関根さんはとにかく濃かった。

そして熱狂的なファンを演じるのが宮川一朗太と江口洋介。今やベテラン俳優といっていい彼らが汗だくになって走る姿。34年前の映画だものなぁと痛感。アイドル映画に桃井かおりを使うのはさすが東宝。他には梅津栄に安岡力也や小野武彦、気がつく限りで「相棒」の山西惇もチョイ役で出演していた。

見ていておニャン子の面々が若く懐かしい。一方で芸能界の厳しさを痛感。卒業にソロ活動を口にするも、現在で工藤静香に渡辺満里奈と生き残るのは僅か。当時のフィーチャーがリーダー格の国生さゆり中心だったのはAKBビジネスの原型を物語る。ただお世辞にも歌が上手いとは言えないのはアイドルのアマチュア化を進めた秋元康の功罪だろう。

それでも同じ時代を生きた者として耳馴染みある曲が流れると嬉しい。劇中、関根勤が「冬のオペラグラスを聴いた後で...」と言っていた通り、やっぱこの曲は最後まで聴きたいものなぁ。あとあと、ニャンギラスが出てきた時には思わず「居た、居た」と懐かしくなったよ。

210418_01

 

 

 

 

| | コメント (0)

2021/04/10

「21ブリッジ」を観る

今日は盟友N氏と「21ブリッジ」を観てきた。「ブラックパンサー」でおなじみ、昨年急逝したチャドウィック・ボーズマン主演、「アベンジャーズ/エンドゲーム」のルッソ兄弟製作のクライムスリラー。

閉店後の飲食店を二人組の強盗が襲った。彼らは依頼され、地下室のコカイン強奪が目的だったのだ。だが依頼を超える300kgのコカインが眠っていた。だが間もなく深夜の警らで訪れた警官数人に見つかってしまう。銃撃戦の最中、二人はコカイン30kgを手に脱出するも警察は非常警戒をかけていた。NY市警のアンドレは彼らを追うのだが。

プロローグ、幼少時代のアンドレと背景が語られ、後半大きく動いた物語とリンクしていく。物語は70〜80年代のスリラーを思わせ、事態が明らかになった時のアンドレ、チャドウィック・ボーズマンの表情が悲しい。本作で彼のアクションも見られるが、画面から感じる凄み、当時の病状からも満身創痍だったのだと思う。

ただ本作のストーリーテリングがいけない。この手のスリラーを観てきた方ならコカイン強奪の経緯で、後半の展開は気づいてしまう。しかも市警と分署の関係が解らないと、アンドレが事件を追いかける流れが見えない。しかも中盤までは銃撃戦ばかりでやたらと人が死ぬ。その理由も最後まで見ればわかるが、中弛みの原因となっている。

チャドウィックに加えてJ.K.シモンズやシエナ・ミラーを配し、キャストはA級感で物語はB級。強盗の一人を追い込む際のアクションは一瞬熱くなるが見どころは少ない。ルッソ兄弟の「シビル・ウォー」のアクションは素晴らしかったが、映画はあくまで監督のもの。その点でも割引せざる得ない。

最後にチャドウィック・ボーズマンさんのご冥福をお祈り致します。

210410

 

 

 

| | コメント (0)

2021/04/09

「世界で一番しあわせな食堂」を観る

今夜は「世界で一番しあわせな食堂」を観てきた。昔観た「過去のない男」のアキ・カウリスマキは本作、ミカ・カウリスマキ監督の兄。何処となく御伽噺的なところは兄弟の持ち味か。そしてフィンランドの土地柄がその意を強くする。本作は中国人親子とフィンランド女性の出会いを描く。

田舎町で食堂を開くシルカ。店は地元の客に愛されるも味はイマイチ。そんな店に中国人のチェン親子が人探しに訪れるも有力な情報は得られなかった。そんな親子へ宿代わりに部屋を提供するシルカ。人探しを続けるチェンの前、店に中国人観光客のバスがやって来た。困ったシルカにチェンは手を差し伸べる。彼は中華料理人だったのだ。

ベタな邦題だが、原題は「MESTARI CHENG」=マスター・チェンと主人公を表す。冒頭、ジャンク感を醸すマッシュポテトとソーセージソースと対照的にチェンの作る料理は見た目と味で客の舌と体、そして観ている我々を魅了。差別的な口調で辛口な老人たちも盃を交わす程になるエピソードが可笑しい。美味しい料理は言葉と文化の壁を容易く壊す。

一方でフィンランドの土地がチェン親子を癒していく。彼らの素性が明らかになっていく過程、周りの人々が潤滑剤となって親子を盛り立てる。人生の再生もこの映画のテーマ。シルカの「社交辞令は不要、本音で話す」というセリフに共感。同じく料理に魅了されたシルカ。そして二人は親密になっていく。

この映画を観ているだけで癒され、かつ何とも心地いい。もちろんそれはフィンランドの土地の為せる業。挿入される自然、夕日の全てが美しい。ただコロナ禍で荒んだ今だからこそ彼らのような暮らしに戻りたい。そんな心境を映したような作品だった。

210409

| | コメント (0)

2021/03/26

「ノマドランド」を観る

今夜はフランシス・マクドーマンド主演「ノマドランド」を観てきた。ノマドとは流浪の民。家を持たず、車上生活を続ける彼らの姿を追うロードムービー。

2011年、リーマンショック後のアメリカ。経済不安の中、石膏事業名高い都市から人が消えた。ガンで夫を亡くし、家を追われたファーン。彼女は車を生活拠点に季節に沿って移動、仕事を変えつつ過ごしていた。同じ車上生活者、道中で出会う人々の境遇は様々。彼らは別れと再会を繰り返していく。

マクドーマンド演じるファーン、そして取り巻く人々を通して描く人間讃歌。格差社会への批判も垣間見える。しかし主人公ファーンは狂言回し。彼女は物語のための虚像(演じ手)であり、周りの人々こそ現実流浪の生活をしている事が興味深い。演技抜きの素人らしさも伝わる。まるでマクドーマンドの目を通したドキュメンタリーに見えてくる。

ただオスカー女優、マクドーマンドも負けていない。序盤からノーメイクに顔のシワを晒し、素人衆の演者に溶け込む凄さ。泥臭く勤める仕事も生活の生々しさも伝える。某巨大通販会社に始まり、国立公園のスタッフ等、ガチンコで彼らの生き様をみせていく。特に外は極寒、車中での就寝には観ているこちらが参った。

さよならはないという彼らの信条。彼らの心の結びつき、周りの人々のエピソードにこの映画の伝えたい事が凝縮されている。ラストシーンを通して再出発していくファーン。今年のオスカーは先週の「ミナリ」同様、今のアメリカの姿が問われているのだろう。

210326

 

| | コメント (0)

より以前の記事一覧