2020/05/01

早見和真著「ザ・ロイヤルファミリー」を読む

Kindleで早見和真著「ザ・ロイヤルファミリー」を読んだ。2019年度JRA賞馬事文化賞受賞。先日、グリーンチャンネル「競馬場の達人」「草野仁のGateJ+」に早見氏出演がきっかけで読み始める。無観客開催、競馬場に行けない寂しさ...そんな気持ちも後押ししていた。

中央競馬の馬主である人材派遣会社社長 三王耕造の下、あるきっかけで経理課(=レーシングマネージャー)に招聘された栗栖栄治。ある時、牧場に務める元恋人の加奈子から一頭の牡馬を紹介される。その牡馬はロイヤルホープと名付けられた。ホープ、山王家、そしてライバル陣営、それらを栗栖=クリスの目を通して描かれていく。

最初、クリス目線で
語られていく点に違和感があった。ただ語り部である事、本作が群像劇である事から必然。すぐに気にならなくなった。そして読み進める上で単なる群像劇でない事に気づく。競馬は血統のスポーツと言われる。血を紡ぐ、ホープのその先こそが読みどころとなってくる。

血統を巡る物語ながら、皆の知るサンデーやディープが登場しない架空の世界。でもそこがいい。競馬ファンならその範とした名馬をイメージできるだろう。そして言葉に著さずとも競争成績を読むだけで物語は見えてくる。これも競馬ファンならでは。

読み進めていくとまるで競馬ゲーム「ウイニングポスト」をやっている気になってくる。いや血が通った「ウイニングポスト」と言ったところ。競走馬の影に馬主、生産者、調教師、騎手らの人間ドラマがあるはず。著者は実際の大物と馬主への取材を通し、彼らの馬に対する想いが作品のセリフを通して感じられた。

タイトルの理由は推して知るべし。
もちろん山王社長と家族、そしてその子耕一の物語は創作であるが、その関係性は彼らの所有する競走馬に繋がる。冒頭から散りばめられた伏線、エピソード、レースがクライマックスに結実する点が素晴らしい。ダービーではなく、有馬記念への想い。物語の背景と相まって盛り上がっていく。

相続馬限定馬主制度はこの作品で初めて知ったが、そういう事情のもあるのだなぁと納得。本作ではこの制度が重要ポイントとなっている。

競馬ファンなら読んでいて新馬戦に条件戦、レース名と共に容易にそのシーンが浮かぶ。ホープ(そして...)も紆余曲折、完全無欠な名馬でないからこそのドラマがある。そこにステイゴールドの姿が重なるのは自分だけであるまい。

競馬ファンだけでなく、もし本作で競馬に興味を持ったのなら、中継を観て欲しい。折しもG1シーズン。それだけでなく平場、条件戦に明日のロイヤルホープがいるかもしれない。そしていつか競馬場に人の生む熱気が帰ってくる事を切に願う。

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2020/02/23

小島友実著「馬場のすべて教えます~JRA全コース徹底解説~」を読む

小島友実さんの著書「馬場のすべて教えます~JRA全コース徹底解説~」を読んだ。グリーンチャンネル「徹底リサーチ! 平成競走馬進化論」や「潜入!馬場管理の舞台裏」で番組MCを務め、独自の切り口で競馬の魅力を伝えてきた著者。その馬場研究をまとめ、2015年に出版されたのが本書となる。

競馬は勝つ事、着順を競うスポーツ。ペース影響もあるが、同時に馬場状態が重要となる。自分が使っている西田式スピード指数に限らず、指数派の人たちは馬場差を考慮、計算に入れて予想している。

今回、この本を読み始めた理由は二つ。先のグリーンチャンネルの番組で興味を持った事。そして昨年11月の京都開催以降で馬場差(馬場指数)が急激に悪化した事だ。そしてこの本を読んでその謎は氷解した。

これまで京都競馬場の芝コースは路盤排水効率が良く、当日雨の馬場悪化を除き比較的好条件で施行できていた。馬場指数をみてもそれが受け取れる。しかし昨年の台風以降、それに伴う豪雨はこれまでの馬場(芝)悪化と回復のサイクルを超えるものだったと推測する。そして今開催もその影響が残っていた。

京都では他場で普及しているエクイターフを導入していない点(2015年本著発行時)も大きい。JRAのHPでも言及されていないため実態は判らないが、現時点も使っていないと推測する。エクイターフは日本の土壌、環境にあった耐久性のある芝。オーバーシードと共に冬場であっても緑のターフ、安全性を支えている。

元々京都はオーバーシード中心の対策で、本格的な芝の張替えが行える春開催後まで手を付ける事ができない。たぶん今年の春の天皇賞は例年以上にパワーを要求される事だろう。当たり前なのだが、どの競馬場も夏を前に芝を張替える。その点で芝の選定、最終開催の有利不利も出てくるのだ。

なお京都競馬場は今年の春開催を終えると長期工事(2023年3月終了)に入るが、昨秋の状況を踏まえた路盤改修がなされるのでは、と思う。

そうして思い出すのは競馬を始めた90年代初頭。メジロマックイーンとトウカイテイオー、春の天皇賞2強対決。芝と呼ぶには剥がれまくっていた直線。テイオーが伸びあぐね、スタミナの勝るマックイーンが圧勝した。もし今の馬場管理レベルだったら、あそこまでの差になっただろうか。テイオーは戦後に骨折を免れていたかもしれない。本著を読むととにかく馬場管理の進化に驚かされる。

閑話休題。先のエクイターフ、そしてバーチドレン等のエアレーションに言及。レースの安全性、公正性、全能力を発揮できる事を目指す改良の経緯が興味深い。特にファンの間で議論されるのが、芝の硬さ。硬いから速いのではなく、あくまで走りやすいから。今や日本競馬の芝の硬さは欧州並み。細かな指摘は本著に譲るが巻末の座談会で、ロンシャンを目指すなら前哨戦を使う長期滞在を薦める声は見逃せない。

また芝コースに限らず、ダートコースにも触れ、路盤状況、開催日のコースメンテ事情等、実に読み応えがある。また改めてコース解説を読むと、色々と思い知らされる。ジョッキー、競走馬、そして馬場造園課の皆さんって凄いよ。そして本当に競馬は奥が深い。アムロじゃないけど、うちの子供に「オヤジが熱中になるわけだ」と言われそう。

本著はそんな競馬オヤジ、競馬沼にハマった方にお薦めしたい。

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2019/12/30

横山剣著「僕の好きな車」を読む

ご存知、クレイジーケンバンドの横山剣さんの書いた「僕の好きな車」を読んだ。雑誌「POPEYE」6年間の連載をまとめたもの。

読むきっかけは「おぎやはぎの愛車遍歴」で剣さんの回(車好きの剣さんは4度出ているらしい)で、著書の紹介があった事。表紙のイラストレーションと相まってつい欲しくなった。

この本には71台の車が登場、健さんにとって71のストーリーが紹介される。新旧問わずに所有車、乗った車に見た車。そして憧れの車を振り返る。趣味性に溢れ、音楽からの切り口、剣さんの人生や人間関係を絡めながら語られていく。小さな時から車好きな事もよく分かる。

何しろそこからの境遇から複雑。剣さんに対しての義父、実父の関わりが興味深い。義父との関係は車好きの土壌を作りつつ、実父とも車絡みのエピソードも持つ。加えて根っからのレース好き、レーサー好きゆえに伝説の第1回日本グランプリも見ているのだ。近所のレーサーに会いに行く話も面白い。

それぞれのエピソードは各2ページにまとめられ、その冒頭を文中をイメージしたイラストが彩る。この本にkindleは無いが、あっても迷わず本で欲しくなる。それ程に装丁が素晴らしく所有欲を満たしてくれる。そして読みやすい文章もさる事ながら、今日は何台分のエピソードを読もうかなんてね。

剣さんって我が盟友N氏との共通点も多い。例えば買ったばかりの所有車の横目に、別の車に気持ちが動く。でもそれが羨ましい。ここがイイとか、どう乗ってやろうとか。

そう、剣さんの決めゼリフ「イイねっ!」の誕生の秘密にも触れられている。そこは是非、この本を読んでみて欲しい。

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2016/02/14

「Kindle paperwhite」を使う

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 昨年末にAmazonのKindle paperwhiteを買った。きっかけはフィリップ.K.ディック「高い城の男」の購入。近所の何処の本屋でも見つからず。この間、Amazonの欲しい物リストにあったこの本の残数はゼロになっていた。これまでも興味を持った本がリアル店舗に無く、購入を先送りした事が何度もある。購入への不便さとガジェットへの憧れが一致し、Kindle購入に至った。

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 Kindle paperwhiteは買った時期から第7世代、Wi-fi版を手に入れた。本の虫でも無いので3G版は不要。少し価格の安い「キャンペーン情報付き」はAmazonのユーザーレビューでは圧倒的に不評のため、それだけは止めておいた。

 書籍の購入はKindleでもできるが、自分のスタイルとしてはPCのみで行っている。Kindleの操作はもっさり、スマホやタブレットに劣っているし、Webの参照も良く無い。購入した書籍は手元のKindleと紐付け、ダウンロードされる。バッテリは自分の使い方なら今のところ月イチフル充電で良さそう。

 Kindle paperwhiteのいいところは長時間読んでいても疲れない事だ。e-inkの恩恵、高解像度、フォントの見易さは他のガジェットとは一線を画す。また以前なら就寝前の読書でデスクライトは必需品だったが、Kindleのバックライトで十分(視力のために良いかは別にして)。ページ送り程度なら片手操作で読み進む事ができる。ただ寝落ちした際、Kindleが手元から落ちてハッとする事も多くなった。普段使いでは気にならないが、もう少し軽くても(Wi-fiモデル:205g)良いなぁ。

 画面の見易さを維持したいなら液晶保護フィルム、カバーは必須だろう。カバーは純正品以外もあり、今なら色、価格で選べる。ただフタを閉じると電源が落ちるマグネットタイプを選びたい。一応、2年の事故保証プランにも入っておいた。

 Kindleの書籍は青空文庫等、無料のものもダウンロードできる。無料マンガも多い。「恐怖新聞」「ゲームセンターあらし」なんて昔を懐かしむコンテンツもある。またお試しの延長で第1巻のみ期間限定で無料というのもあり興味深い。「ちはやふる」なんてリアル店舗で立ち読むなんてありえない。気がつけば、無料マンガのダウンロードばかりが増えている。

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 電子書籍は読書の概念を変える。他のガジェットとの住み分け、書籍の代替に十分と感じた。これまで「高い城の男」「赤めだか」と読んでみたが、最初の持っていた違和感、例えばページを読み進めた時の感覚(手に感じる残ページとか)、気にならなくなった。Kindleの章の読了時間推定とかは空いた時間の有効に役立つ(時々間違うけど)。一つのパッケージに有限だが、数え切れない数の書籍コンテンツが収まるのもありがたい。この時代の流れは止まりそうにない。

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2016/02/13

立川談春著「赤めだか」を読む

 Kindleで立川談春著「赤めだか」を読んだ。読むきっかけは年末放送されたドラマ「赤めだか」。談春さん本人は高視聴率終わった「下町ロケット」にも出演。「ルーズヴェルト・ゲーム」の時の悪役ぶりと打って変わった人情脆い番頭どころを熱演。もちろん彼のメインフィールドは落語。「赤めだか」は入門から真打に至るまでの自身を回顧した作品だ。

 ドラマを観てから原作本に入ったため、ドラマのために改変された箇所もあった。ドラマはニノ演じる談春は一人で河岸に修行へ出されたが、実際は関西と一緒。二つ目昇進での出来事、きっかけとなる演芸評論家の存在も原作にはない。ただそれ以外のエピソードはほぼ原作通りといった感じ(ドラマのみで補間されたエピソードもあり)。ただ原作は真打となる談春までを描いており、実はそこにこそ彼の大きな成長が隠されている。

 談春は真打昇進を賭け、6ヶ月連続のトライアルを考えた。しかも最後の回のゲストに柳家小さんを担ぎ出す。それこそ談春が談志(イエモト)にけじめをとる策。だが談志とかつて喧嘩別れした落語協会、その会長の小さん師匠とは兄弟弟子。旧態依然の落語協会に対する因縁、談春の知らぬ談志と小さんの関係、談志からのちに思いを知らされると談春だけでなく、読んでいる我々も心を震わせる。

 柳家小さんに続き、自称人間国宝コレクターたる談春の桂米朝師匠とのエピソードも可笑しい。談春の思いと裏腹に運の無さと大らかな米朝一門とのやり取り。大御所との対峙を可能とするのも談春の才能、人柄ゆえ。この本を談志(イエモト)の言葉を談志の声を想って読むと感慨深い。そしてその一語一句、エピソードを完璧に紡ぐ談春の文才に舌を巻く。ドラマに魅せられたなら是非読んで欲しい。

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2016/01/30

フィリップ・K・ディック「高い城の男」を読む

 フィリップ・K・ディックの「高い城の男」を読んだ。ディックといえば映画「ブレードランナー」「トータル・リコール」の原作で有名。今回読むきっかけは昨年、ディスカバリーチャンネルで放送されたミニシリーズ「SF界の巨匠たち」。そこで採り上げられたのがディックだった。このシリーズでは作家の先見性と現代テクノロジーがテーマだったが、ディックらしく人間のパーソナルな部分に迫っていた。

 「高い城の男」は第二次世界大戦で枢軸国が連合国に勝利した戦後ifを描いたもの。舞台は日本とドイツに分断、統治されたアメリカ。ただそのスケール感に反し、物語はディックらしくパーソナル。何人かの登場人物は絡む事があっても、主体はオムニバス形式。「古美術商」「タンポポ作戦」「易経」そして「高い城の男」とは?その顛末が描かれる。

 読みどころはアメリカに生まれた文化のカオス、作品内の小説「イナゴ身重く横たわる」の存在。「高い城の男」自体もパラレルワールドだが、「イナゴ身重く横たわる」も更なるパラレルを生む。枢軸国に統治される人々が読む連合国勝利後の世界は、現実と微妙に異なっているのが面白い。先に挙げた2作、他の著作同様、自分の居る世界、現実への疑問が展開される。

 惜しむらくパーソナルな内容ゆえ、物語のダイナニズムは限定的な事。そしてもう一つ、我が想像力が分断統治のアメリカの世界観を補えなかった事。欧米文化に彩られた今の日本の逆を行くせ界はさすがにイメージできない。ただ本作はリドリー・スコット総指揮でドラマ映像化されており、いずれ日本でも観る事ができるだろう。その時が楽しみだ。

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2015/03/19

再び「鍛えて最強馬をつくる」を読む

 最近競馬本を読み漁る中、昔読んだ「鍛えて最強馬をつくる」をもう一度読みたくなった。この本は故・戸山為夫調教師(当時)の遺稿。第7回JRA賞馬事文化賞を受賞した作品でもある。サブタイトルに"「ミホノブルボン」はなぜ名馬になれたのか”と立てられた通り、馬の調教論を中心に厩舎経営、人材教育、さらに自身の半生を騎手時代、調教師として経験を綴った本である。20数年前と違った感慨を受けただけでなく、その内容は今読んでも全く色褪せていなかった。

 当時脚光を浴びた坂路調教の事ばかりに目が行くが、改めて読んでみると戸山さんの人生が投影された競馬論になっている。それが馬作りであり、人作りでもある。志半ば騎手を辞め、実績のないまま調教師へ転身。人と同じ事をやっていては勝てない。それが強い調教、牧場と連携した強い馬作りへ繋がっていく。先日読んだ「世界一の馬をつくる」にも相通じる点でもある。牧場のあり方は競馬しか見ないファンには新鮮だろう。戸山さんはその先駆者の一人であり、持ち乗り制度の導入も率先した。

 そんな持ち乗り制度導入の経緯も興味深い。限られた人材の活用、もちろんそれも馬のためである。一頭の変化を知る事、運動時間への活用が利点。高コストは掛けられず、垢の付かない若手を登用した。安永調教助手のミホノブルボンへの起用もその流れである。そうした人材を育て自厩舎、競馬界へ還元する。寄稿当時、先に独り立ちした森調教師は戸山イズムの継承者でもある。ただそこに厩舎経営の難しさも垣間見える。

 持ち乗り制度の考え方は小島貞博、小谷内秀夫の二人の所属騎手を主戦とし、普段から調教に乗り、かつ実戦を使う事で馬の能力を引き出す事にも繋がっている。戸山さんが「厩舎のスタッフは家族同然」と述べる通り、ビジネス優先の経営ではない。予算の限られたオーナーに対し、如何に結果を出すか。それに応えた厩舎スタイルなのだ。ただそれだけに、戸山さんだからこその部分も多く見られる。非社台で戦えた頃、ミホノブルボンは最後の輝きだったかもしれない。

 現在、戸山イズムの後継者、森厩舎がビジネス然たるスタイルで成功と思いきや、社台馬の台頭は厩舎間の競争を激化させた。坂路調教、持ち乗り制度、インターバル調教も今や当たり前であり、アドバンテージではない。ただ戸山さんの存在が無ければ、日本競馬は10年遅れていたのかもしれないと思わせた。最後に今本来、愛弟子として戸山さんの後継者であるべき、小島貞博師の姿が無いのは本当に悔やまれてならない。

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2015/02/14

「世界一の馬をつくる」を読む

 「世界一の馬をつくる」を読んだ。ノースヒルズ代表である前田幸治さんが自身の取り組み、生産馬、所有馬、生産牧場、今や前線基地として有名な大山ヒルズを振り返る。二年連続日本ダービー馬を送り出し、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのオーナー・ブリーダーである。オーナー・ブリーダーというとかつてメジロ牧場が有名どころだったが、今や解散。それだけでなく日本の馬生産界はサンデーサイレンス系の隆盛に社台グループの一人勝ち状態となっている。そこに一矢放ったのが、チーム・ノースヒルズなのである。

 今のノースヒルズは前田さんの貪欲さの賜物、それだけでなくチーム・ノースヒルズの成果なのは間違いない。そこにある前田さんのリーダー論、人の繋がりを尊う考え方、競馬への取り組みは結果を出しているがゆえ、本書は非常に読み応えがある。新参者ゆえに成功者、海外のノウハウを取り込んだというが、そこに行き着く判断力が素晴らしい。既成概念からの脱却、新人の起用。人を活かす組織作りは競馬に限らず、一般社会にも通用する内容である。

 ただ社台グループも黙っていない。この本の中でも触れているが、彼らもそのノウハウを得るべくノースヒルズを訪れている。「秘密ではなくなってしまうわけだが、それによって日本の生産界全体のレベルが底上げされるのなら大歓迎」とまとめている。そもそも二頭のダービー馬の父は社台グループの種牡馬とくれば、共存の上の出来事。あくまで「世界一の馬をつくる」ためにはとにかく貪欲、そしてチャレンジ精神に富んでいる。

 残念ながら現時点、ノースヒルズから世界一の馬は生まれていない。しかしトランセンドはドバイワールドカップで2着に善戦、今も二頭の現役ダービー馬が世界制覇へ控える。そのうちの一頭、いよいよ復活したキズナが京都記念に出走する。果たして今年の大目標、大願成就へのステップとなるだろうか。同じく素質馬ティルナノーグも同日の共同通信杯に出走、クラシック戦線を賑わす。これからもチーム・ノースヒルズへの興味は尽きない。競馬ファンなら必読の一書だ。

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2015/02/07

「波のうえの魔術師」を読む

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 石田衣良原作の「波のうえの魔術師」を読んだ。Amazonを開いた際、何気に目に飛び込みずっと気になっていた。ドラマ化されていたようだが、あまり覚えていない。

 就職浪人の白戸は小塚という老人と出会う。テストされた白戸は小塚の下、株式取引を学ぶ。やがて合格を勝ち取った白戸は株式市場という波に乗り込んでいく。そんな中、小塚は白戸にある計画を持ち出すのだった。

 この作品は一見、経済もののようだが、中身は青春小説である。石田衣良らしく何処かに青臭さに大人の目線、そして痛快さを秘めている。主人公・白戸則道の成長物語であり、ラストに控えるほろ苦さ。物語の違いはあれど「ショーシャンクの空に」に相通じる味わいがある。

 経済小説としては株式取引、小塚老人を通して経済学、市況感が描かれており、勉強にある。そこにバブル時代に社会問題となった変額保険を取り上げている。そこにまつわる復讐劇こそこの物語、もう一つの柱。物語に時節が織り込まれているからこそ、リアリティが生まれる。そこがこの作品の面白いところだ。


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2014/05/06

「誰も書かなかった 武豊 決断」を読む

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 島田明宏著「誰も書かなかった 武豊 決断」を読んだ。天皇賞・春で一番人気に支持されたキズナ、武豊のコンビであったが、追い込んで4着と惜敗。ただここ数年、競馬界で逆境に立たされた武豊が、復活のキッカケを生んだのがキズナとの出会いと言っていい。鮮烈なデビューからスペシャルウイークでの初ダービー制覇、自身が重圧に耐えて騎乗したディープインパクト、そして今までの姿を武の「心友」である著者の目を通して振り返る。まるで武豊の道程を間近で見る思いがする作品だ。

 国内での実績はこれまで伝聞されたものも多いが、そこに裏打ちされた勝負師、武豊の姿がこの本に著されている。常にプロフェッショナルである武の本音が著者の目を通して感じられた。平成三強(イナリワン、スーパークリーク、オグリキャップ)の全て、伝説の桜花賞出遅れ、サイレンススズカの死、そしてディープインパクトの衝撃等、読みどころは多い。中でもダービーを勝つまでの試行錯誤は5勝という形で今も続いているが、そこに至った意識こそが成せる業なのだろう。これからも若駒から彼が騎乗、ダービーに参戦した馬に注目せざる得ない。

 本作で特に興味深かったのは海外での騎乗の事だ。海外GI制覇ばかりに目が行き、アメリカ、フランスと長期滞在での出来事はこれまであまり伝わって来なかった気がする。思うように進まなかったアメリカでの最初の武者修行からのちにフランス、ハモンド調教師からのオファーに至るまで確実に実績を積み、世界的な評価に至っている騎手は日本で今や武豊以外にいない。それだけにフランスで本格参戦した最初の年に途中ケガで帰国を余儀なくされた点が残念でならない。

 その後、ご存知有力個人馬主との確執、2010年の落馬以降での騎乗馬の激減に至る。今の社台グループとの関係は著者の言葉は少ないが、生産界と騎手の最強コンビこそが世界で戦うべきと言っているし、ボクもそう思う。短期で効果を上げる外国人騎手起用にばかり向かうだけが日本競馬の未来ではない。そしてこれまで武豊が築いた人の繋がり、実績こそがキズナでの復活、GI100勝目を後押ししたのだ。とにかくこの本では実に一つ一つのエピソードが細かく描写されている。読み始めるとあっという間。春のGI真っ只中、是非この本でこれまでの武豊、彼の競馬の旅を追体験してみてはどうだろうか。


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