2023/08/12

金子哲雄著「僕の死に方 エンディングダイアリー500日」を読む

金子哲雄著「僕の死に方 エンディングダイアリー500日」を読んだ。単行本は2012年11月初版発行。流通ジャーナリストとしてテレビ・ラジオ他で活躍していた著者がそのキャリア絶頂期に直面する病。著者が奥様、著者を支える人々を交えて歩むエンディングダイアリー。

実は初版発行当時、この本を手に入れていたものの、読み始める事ができなかった。死に対峙する覚悟が自分に無かったのが原因。判っている結末に向かっていく事への恐れ。だがそれは著者にとっても同じ。もちろん文章に断片的に、そして巻末に向かって少し強くなるが、著者の覚悟(この本への想い)から冷静に記されていく。

だが本を読み始めるとどんどんページが進む。いつも本は適当に声をイメージしながら読むが、今回は著者である金子さんの声がハマった。記憶に刻まれた独特の語り口が甦る。またその切り口に映るジャーナリストらしい終末医療の現実、それを身をもって語られ、金子さんにとっての最適解に導くべく模索する。

最初とあとがきは奥様が、金子さんが奥様と二人三脚で辿ったエンディングダイアリー500日は感謝を持って結ばれていく。それは金子さんにとって理想的な形。終活が一般的となった今、その先駆けがこの本。もし不安が過った時、金子さんの経験は灯台の明かりになってくれると思う。

個人的にこの本に金子さんの強いパーソナリティを感じたのが、ブレイクのきっかけを掴んだ道程。自ら語るプロセスはなかなかの知略、確証を持って金子さんが世に出てきた事がわかる。その原点に昼間のワイドショーがあったりすると、世代的にシンパシーを感じざるをえない。あの頃のテレビは知的好奇心を擽るなかなかの娯楽だったなぁと。

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2023/02/18

配信時代の煽り

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街のTSUTAYAが近々閉店する事になった。大昔は映画とかああいうビデオとか、最近までなら音楽CDはよく借りていた。ただ映画は新作ばかりになったし、CDもメジャーな作品だけが置かれるようになって足は遠のいた。

やはり足が遠のいた最大の原因は配信の影響。映画はAmazonプライムに契約している限り、一定数の作品は別料金無しに観られるし、一部の作品はNetflixやディズニープラスを一時的な契約で対応。映画館を至高としてテレビ視聴は見逃しや追体験程度と思っている。

ただ音楽では配信を利用していない。Amazonプライムで音楽配信しているけど、滅多に使わない。痒いところに手が届くほどで無いし、好きな曲は我がiTunesのラインナップには及ばない。それにラジオで音楽を聴く機会が増えて充分に思える。

またTSUTAYAは本も売っていたわけで、その売り上げも影響したろう。昔は書店同士がしのぎを削るとその記事が全国紙に載るほどの地域だったのに。それがネット書店に淘汰されて一つ、二つ...とほとんどが消えていった。今は紙の本どころか電子書籍だもの。

でも書店は知の泉のような場所。様々な情報を自分の意思で選ぶ事ができた。しかし今ネットで何か探すとなれば、AIやディープラーニングに基づいたオススメが現れる。書籍然り、ネットでは映画や音楽、世論と何もかも誘導。便利な時代には裏がある。


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2022/09/19

鈴木忠平著「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book) 」Kindle版を読む

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鈴木忠平著「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book) 」Kindle版を読んだ。きっかけは最近読んだNumber(ナンバー)1058・1059合併号。予てからノムさんの著書は読んできたが、この号で似て非なる名将と比較されたのが落合博満。プロ野球界で大きな足跡を残しながら何処か皮肉屋の二人。特集を通して非なる部分にスポットを当てており、そこに出てきたのが本著だった。

日刊スポーツで当時中日ドラゴンズの番記者だった著者が、監督就任した2004年シーズンから2011年の退団までを追ったドキュメンタリー。落合の言動に納得の行くもの、行かぬもの。選手やスタッフ、読者まで著者同様に疑問を持ちつつ読み進めるも、最終シーズンに起きた出来事、その後を通してハッとさせられ、腑に落ちる瞬間が訪れる。

落合といえばロッテ時代、言わずと知れた三冠王、しかも三度。その後、セリーグで中日、巨人と活躍し、最後の球団となる日ハムまでオレ流と呼ばれるスタンスで選手期を過ごした。独特で広角に構えた神主打法はファミスタでよく真似した(実際の野球じゃないのかよ)。テレビのインタビューでは的確ながらも多くは語らず、そんな落合が気になってはいた。でもここ10年以上、あまり野球そのものを観ていなかったけど。

それでも本著で登場する2007年の日本シリーズは辛うじて観ていた。完全試合寸前の山井を9回交代、ストッパー岩瀬で逃げ切った落合中日。歓喜と落胆が入り混じった光景が思い出される。本著を読み、回を追って生まれる緊張感、それぞれの思いが交錯する。文章だとその情景に読む側の心が掻き立てられる。そんな緊張感も、今なら笑って当時を語る落合の姿がYoutubeで見られるけど。

著者の文章もあってまるで映画のような読後感。落合、番記者である著者、そして選手、スタッフにスポットを当てた光と影。様々な疑問が最終シーズン、ペナントレース終盤で解かれるように伏線回収されていく。個を大事にする監督が生んだプロ集団誕生の瞬間と別れ。理論的、合理的、プロ主義の落合がその瞬間を作ったのだ。まさかこの本で泣かされるとは思わなかった。映画好きの落合にして現実、映画を観ているような展開、結末だったのだろうなと推測。

これまで感情的になる事こそ全ての原動力と勘違いしてしまっていた。本著の中で闘将との比較、「フォルテッシモで感情をぶつける星野、落合はピアニッシモ」の比喩に納得。様々な決断を求められるプロ野球監督。どちらが説得力を持つか、決意にブレがないか推して知るべし。本当に落合の言動は無駄がない。そしてメリハリ。それでも先の通り、個の力の積み重ねで心は動かす事ができる。「技術を高めれば心を強くする」にも同意。

本著を読んで誰もが落合を好きになるかは別にして、改めてとても興味を持った。オレは落合さんが好きだよ。何とそんな落合さんがYoutubeでオレ流チャンネルを開設。もう監督はやらないと言ってるけど、野球は大好きなんだな。さかなクン同様、落合さんも求道者だから。Number(ナンバー)1058・1059合併号共々、本著はオススメ。ちなみにオレはヤクルトファンですけどね。




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2022/08/11

大城文章[チャンス大城]著「僕の心臓は右にある」(Kindle版)を読む

大城文章著「僕の心臓は右にある」(Kindle版)を読んだ。著者名は本名、実態は地下芸人チャンス大城。「水曜日のダウンタウン」のドッキリ企画等で異彩を放つ著者が、幼少期から夜間高校、NSC時代に上京して現在までの道程を事実とユーモアで綴った回顧録。短いエピソードを重ねながら読み易くあっという間に読了。

タイトルにあるように心臓の位置が醸す不気味さもあるが、その根底は生まれもってのクリスチャンである事、そして育った尼崎という環境と個性的な家族、友達等々の影響を受けた結果が今のチャンス大城を生んだ。しかも22才で予言された32年後のブレイクとその熟成期間をもっての事。その全てが愛おしく可笑しい。しかも時々恐ろしい。

同世代というのもあって地域的な違い以外は重ねる部分が多い。やはりイジメに関する部分は共感もあるし、一方で想像以上の出来事に驚愕する。のちに「すべらない話」で回顧する事になる"埋められた"事件なんてもう犯罪だよなぁ。「恐怖のヤッちゃん」を思い出したよ。そりゃオドオド生きたくなる気持もわかる。

そして芸人になるべくして出会う人たち、エピソードに掛けられた言葉のライブ感。その積み重ねに感謝する姿はまさにクリスチャン。神の存在と共に何処か神秘性のある世界観はチャンスさんならでは。中でも上京した後のバイトでのエピソードは神懸かっている。まさかあの人をナンパ、合コンするなんてね。

このまま映画になりそうなくらい各々のエピソードが尖って濃い。ちなみに地上波での映像化はコンプラ関係で絶対無理。こりゃネットフリックスは黙ってないだろうな。もちろん吉本も。上京後の登場人物は全て本人で演って欲しいくらい。そんなこの本は夏のひと読みにオススメ。

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2022/08/06

ジェイク・エーデルスタイン著「トウキョウ・バイス: アメリカ人記者の警察回り体験記 Kindle版」を読む

「トウキョウ・バイス: アメリカ人記者の警察回り体験記 Kindle版」を読んだ。タイトルにあるようにWOWOW、HBO共同製作ドラマ「TOKYO VICE」の原作。2010年に英語で出版されたが、本作は2016年出版の日本語版でKindleのみ。単なる日本語訳で無く、ニュアンスを伝えるべく著者の手で改めて日本語で書き下ろされたもの。読売新聞の記者時代を含めた回顧録である。

まず原作とドラマの違いは多い。こちらは実話であり、ドラマはエンターテイメント。とはいえドラマの主なキャラクターや背景等は原作に準じている事は判る。この原作は記者時代の背景を深掘り、さらに社会事件との関わり、そして暴力団、特に外国人を狙った人身売買に迫っていく。またジェイク以外、主たる人物は実名。反社に政治家、芸能界とその影響は大きい。

日本の新聞記者は警察回りからその人生を始めるというが、ジェイクも例に漏れず。情報源との信頼性を生む反面、持ちつ持たれつの関係性が忖度に繋がる怖さ。実はその成り立ちが事件番から政治番になった時、今の政治腐敗の温床になっている。社会も政治も根幹は一緒。そして表舞台と裏社会の隠れた関係性さえ見えてきてしまう。

ただジェイクの正義感と事件への執着はドラマ同様、文章に表れている。人生の師となる関口刑事や先輩記者たちとの出会いによってその姿が形成されていく。そしてあるルールの下、性的関係も含めて危険な取材も厭わない。そんな中でヘレナとの出会いが彼の正義感に火をつける。だが国や法律の狭間で報道の限界。さらに裏社会の資金源を巡る後藤組長の厚遇とCIAの司法取引が発覚する。

いくつものエピソードに驚いたり、頷いたり。映画ファンなら知るところの伊丹十三さん襲撃事件。映画「ミンボーの女」製作に端を発し、最悪の結末に反社の影。次作が宗教と反社の関係を描こうとしていた事が本著で明かされている。そんな状況が今世間を賑わせている某宗教団体と政治の癒着と重なってくる。

これは決して偶然では無い。権力者が頼るのは力(反社)と金(宗教)という事。金で票を買う論理は投票率の低さが成せる技。だからこそ投票率上げて対抗するしかない。

閑話休題。読み終えるとドラマはあくまで触り。小型ジェット機に乗った戸澤組長の行く先、原作ではその理由が明かされる。一方、今後ドラマで描かれるかは疑問だが、次シーズンは大期待。その顛末はシーズン3くらいまでやらないと描き切れないだろうなぁ。

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2022/02/26

水道橋博士著「藝人春秋 1~3」(Kindle版)を読む

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水道橋博士著「藝人春秋 1~3」(Kindle版)を読んだ。きっかけ古舘伊知郎さんのオールナイトニッポンgoldでのゲスト出演。早速AmazonでKindle版を購入。年を越した頃から読み始めた。そして3を混み終わる頃に松井大阪市長との舌戦ならぬツイート戦が勃発する。ただこの本を読むと、松井市長が博士を標的にするに少々浅はかさでは、と思う。

たけし軍団一のジャーナリスティックを持つ博士。「藝人春秋」とはお笑い人間讃歌であり、人物アンソロジー。その文章に一人ひとりを語る臨場感に溢れている。しかも笑いの韻踏みを忘れない。さすがカツラKGBの博士ゆえ、小倉智昭氏の章ではこれでもかと筆が走る。この辺の話は3の巻末、町田智浩氏が詳しく解説してくれている。

とにかく博士自身は相手を徹底取材して理解する。特に石原慎太郎氏の件は凄かった。事は1960年代。冒険家として名を馳せた三浦雄一郎氏を自民出馬で石原氏の後押しも間もなく断念する。博士はここでの出来事、その後の両氏の関係性を明らかにしていく。石原氏の記憶への疑問、ある人物の存在。石原氏の恨み節、変わらぬ三浦氏と石原ファミリーの距離、だからこその三浦氏の真意。それを引き出した博士の粘り。改めて石原慎太郎という人の無意識過剰さを感じた。

そんな石原氏と盟友だった橋下徹氏、同氏出演番組からの降板の件。その根底に流れる、今そこにある大阪の危機との因果。特にコロナ犠牲者の突出ぶりは決して無関係で無いだろう。本著で博士は在阪メディアの情報操作にメスを入れる。そこに至る博士の姿を松井市長はどこはまで把握しての行動なのかと思う。

閑話休題。本著を読んでプッと笑ってしまうところが多かった。三又又三やマキタスポーツのお父様葬儀の件、武井壮VS寺門ジモンの顛末、そして古館さんの章では博士の文章が古館節に脳内変換され、その臨場感に酔った。また物語の連続性、タモリの財布の赴き。師であるビートたけし直系、笑いとイデオロギー、シリアスを「振り子理論」で語った面白さだった。




 

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2020/09/06

スティーヴン・キング著「書くことについて」を読む

スティーヴン・キング著「書くことについて」(2013年刊行)を読んだ。「カメラを止めるな」監督の上田慎一郎さんが本書に関しツイートした事がきっかけ。「書き手として創り手として本当に大きな影響を受けてる」という言葉に惹かれて本書を手に入れた。

ホラーの帝王と称されるキングがタイトル通りに物書きを語る。ただ「こう書きなさい」というようなレクチャーは僅か。冒頭、幼少期から作家デビューまでの道程を辿りつつ、その著作のエッセンスが語られていく。

作家が著作、テリトリを離れた話は面白い。そこに人間性が溢れ、本音が見える。才能の塊のようなキングでも運に恵まれた事を挙げている。特に本著執筆中の顛末は運の賜物。それは後半の章で語られていく。頓挫した本著執筆をある事件が後押しするとは...人生は解らない。

キング流の文章術、こだわりに納得。ただこの本を読んで感じたのは「好きこそ物の上手なれ」に尽きる。キングが直接そう言っているわけではないが、言葉の端々を集約していくとそうなる。

当たり前だが、楽しい事、好きな事は続けられる。好きな事には礎が必要。
「書くこと」の礎は「読むこと」。「読むこと」の積み重ねで「書くこと」のための道具、武器が揃っていく。物書きに限らず、いかなる物作りにおいても積み重ねは大事。睡眠学習のような魔法の道具はない。

自分も"武器"を増やしたい。原点回帰。本書に触発され、ブログのエントリーが増えた。コロナ禍だが映画もコンスタントに観ている。積みプラの消化も始まった。馬券は数撃ちゃ当たる...わけではないので程々に。人生は一度きり。楽しく生きようではないか。

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2020/05/01

早見和真著「ザ・ロイヤルファミリー」を読む

Kindleで早見和真著「ザ・ロイヤルファミリー」を読んだ。2019年度JRA賞馬事文化賞受賞。先日、グリーンチャンネル「競馬場の達人」「草野仁のGateJ+」に早見氏出演がきっかけで読み始める。無観客開催、競馬場に行けない寂しさ...そんな気持ちも後押ししていた。

中央競馬の馬主である人材派遣会社社長 三王耕造の下、あるきっかけで経理課(=レーシングマネージャー)に招聘された栗栖栄治。ある時、牧場に務める元恋人の加奈子から一頭の牡馬を紹介される。その牡馬はロイヤルホープと名付けられた。ホープ、山王家、そしてライバル陣営、それらを栗栖=クリスの目を通して描かれていく。

最初、クリス目線で
語られていく点に違和感があった。ただ語り部である事、本作が群像劇である事から必然。すぐに気にならなくなった。そして読み進める上で単なる群像劇でない事に気づく。競馬は血統のスポーツと言われる。血を紡ぐ、ホープのその先こそが読みどころとなってくる。

血統を巡る物語ながら、皆の知るサンデーやディープが登場しない架空の世界。でもそこがいい。競馬ファンならその範とした名馬をイメージできるだろう。そして言葉に著さずとも競争成績を読むだけで物語は見えてくる。これも競馬ファンならでは。

読み進めていくとまるで競馬ゲーム「ウイニングポスト」をやっている気になってくる。いや血が通った「ウイニングポスト」と言ったところ。競走馬の影に馬主、生産者、調教師、騎手らの人間ドラマがあるはず。著者は実際の大物と馬主への取材を通し、彼らの馬に対する想いが作品のセリフを通して感じられた。

タイトルの理由は推して知るべし。
もちろん山王社長と家族、そしてその子耕一の物語は創作であるが、その関係性は彼らの所有する競走馬に繋がる。冒頭から散りばめられた伏線、エピソード、レースがクライマックスに結実する点が素晴らしい。ダービーではなく、有馬記念への想い。物語の背景と相まって盛り上がっていく。

相続馬限定馬主制度はこの作品で初めて知ったが、そういう事情のもあるのだなぁと納得。本作ではこの制度が重要ポイントとなっている。

競馬ファンなら読んでいて新馬戦に条件戦、レース名と共に容易にそのシーンが浮かぶ。ホープ(そして...)も紆余曲折、完全無欠な名馬でないからこそのドラマがある。そこにステイゴールドの姿が重なるのは自分だけであるまい。

競馬ファンだけでなく、もし本作で競馬に興味を持ったのなら、中継を観て欲しい。折しもG1シーズン。それだけでなく平場、条件戦に明日のロイヤルホープがいるかもしれない。そしていつか競馬場に人の生む熱気が帰ってくる事を切に願う。

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2020/02/23

小島友実著「馬場のすべて教えます~JRA全コース徹底解説~」を読む

小島友実さんの著書「馬場のすべて教えます~JRA全コース徹底解説~」を読んだ。グリーンチャンネル「徹底リサーチ! 平成競走馬進化論」や「潜入!馬場管理の舞台裏」で番組MCを務め、独自の切り口で競馬の魅力を伝えてきた著者。その馬場研究をまとめ、2015年に出版されたのが本書となる。

競馬は勝つ事、着順を競うスポーツ。ペース影響もあるが、同時に馬場状態が重要となる。自分が使っている西田式スピード指数に限らず、指数派の人たちは馬場差を考慮、計算に入れて予想している。

今回、この本を読み始めた理由は二つ。先のグリーンチャンネルの番組で興味を持った事。そして昨年11月の京都開催以降で馬場差(馬場指数)が急激に悪化した事だ。そしてこの本を読んでその謎は氷解した。

これまで京都競馬場の芝コースは路盤排水効率が良く、当日雨の馬場悪化を除き比較的好条件で施行できていた。馬場指数をみてもそれが受け取れる。しかし昨年の台風以降、それに伴う豪雨はこれまでの馬場(芝)悪化と回復のサイクルを超えるものだったと推測する。そして今開催もその影響が残っていた。

京都では他場で普及しているエクイターフを導入していない点(2015年本著発行時)も大きい。JRAのHPでも言及されていないため実態は判らないが、現時点も使っていないと推測する。エクイターフは日本の土壌、環境にあった耐久性のある芝。オーバーシードと共に冬場であっても緑のターフ、安全性を支えている。

元々京都はオーバーシード中心の対策で、本格的な芝の張替えが行える春開催後まで手を付ける事ができない。たぶん今年の春の天皇賞は例年以上にパワーを要求される事だろう。当たり前なのだが、どの競馬場も夏を前に芝を張替える。その点で芝の選定、最終開催の有利不利も出てくるのだ。

なお京都競馬場は今年の春開催を終えると長期工事(2023年3月終了)に入るが、昨秋の状況を踏まえた路盤改修がなされるのでは、と思う。

そうして思い出すのは競馬を始めた90年代初頭。メジロマックイーンとトウカイテイオー、春の天皇賞2強対決。芝と呼ぶには剥がれまくっていた直線。テイオーが伸びあぐね、スタミナの勝るマックイーンが圧勝した。もし今の馬場管理レベルだったら、あそこまでの差になっただろうか。テイオーは戦後に骨折を免れていたかもしれない。本著を読むととにかく馬場管理の進化に驚かされる。

閑話休題。先のエクイターフ、そしてバーチドレン等のエアレーションに言及。レースの安全性、公正性、全能力を発揮できる事を目指す改良の経緯が興味深い。特にファンの間で議論されるのが、芝の硬さ。硬いから速いのではなく、あくまで走りやすいから。今や日本競馬の芝の硬さは欧州並み。細かな指摘は本著に譲るが巻末の座談会で、ロンシャンを目指すなら前哨戦を使う長期滞在を薦める声は見逃せない。

また芝コースに限らず、ダートコースにも触れ、路盤状況、開催日のコースメンテ事情等、実に読み応えがある。また改めてコース解説を読むと、色々と思い知らされる。ジョッキー、競走馬、そして馬場造園課の皆さんって凄いよ。そして本当に競馬は奥が深い。アムロじゃないけど、うちの子供に「オヤジが熱中になるわけだ」と言われそう。

本著はそんな競馬オヤジ、競馬沼にハマった方にお薦めしたい。

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2019/12/30

横山剣著「僕の好きな車」を読む

ご存知、クレイジーケンバンドの横山剣さんの書いた「僕の好きな車」を読んだ。雑誌「POPEYE」6年間の連載をまとめたもの。

読むきっかけは「おぎやはぎの愛車遍歴」で剣さんの回(車好きの剣さんは4度出ているらしい)で、著書の紹介があった事。表紙のイラストレーションと相まってつい欲しくなった。

この本には71台の車が登場、健さんにとって71のストーリーが紹介される。新旧問わずに所有車、乗った車に見た車。そして憧れの車を振り返る。趣味性に溢れ、音楽からの切り口、剣さんの人生や人間関係を絡めながら語られていく。小さな時から車好きな事もよく分かる。

何しろそこからの境遇から複雑。剣さんに対しての義父、実父の関わりが興味深い。義父との関係は車好きの土壌を作りつつ、実父とも車絡みのエピソードも持つ。加えて根っからのレース好き、レーサー好きゆえに伝説の第1回日本グランプリも見ているのだ。近所のレーサーに会いに行く話も面白い。

それぞれのエピソードは各2ページにまとめられ、その冒頭を文中をイメージしたイラストが彩る。この本にkindleは無いが、あっても迷わず本で欲しくなる。それ程に装丁が素晴らしく所有欲を満たしてくれる。そして読みやすい文章もさる事ながら、今日は何台分のエピソードを読もうかなんてね。

剣さんって我が盟友N氏との共通点も多い。例えば買ったばかりの所有車の横目に、別の車に気持ちが動く。でもそれが羨ましい。ここがイイとか、どう乗ってやろうとか。

そう、剣さんの決めゼリフ「イイねっ!」の誕生の秘密にも触れられている。そこは是非、この本を読んでみて欲しい。

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