「青春の殺人者」を観る
U-NEXTで「青春の殺人者」を観ました。1976年公開の日本映画で「太陽を盗んだ男」の長谷川和彦監督のデビュー作です。といっても”ゴジ”こと長谷川監督はこれら二作しか撮っておらず、寡作な映画監督として知られています。U-NEXTを契約した時、知らぬ間に本作をプレイリストへ入れ、今日衝動的に見始めていました。
本作は中上健次の原作を基に親殺ししてしまった主人公と恋人の姿を描いていきます。主人公の順を演じるのは水谷豊。今では右京さんですが、ブレイク前はチンピラや犯罪者を演じる事が多かったですね。本作での彼は常に若さゆえ、ヒリヒリするような危うさが漂います。特に母親が帰ってきたところで台所が映るシーンまでの演技が見事です。
母親を演じるのは市原悦子。この母親が順と横たわる父親を前に本音を吐露する姿。母と子の関係、近親相姦まで行かずとも男親が立ち入れない壁を改めて感じました。”静”の「家政婦は見た」に対し、まさに”動”。ここでの市原さんの演技は凄いですね。
ちょっと笑ってしまったのが、順が「今、息しなくなったところだ」と言いつつ、息絶えた父親役の内田良平の腹は小気味よく動いていました。結構長いシーンなので息止め我慢できませんよね。水谷と市原の演技が素晴らしかったので止めらない事情もわかります。
順が行き掛かりに父親を殺してしまう理由は恋人であるケイ子との事です。ケイ子から聞かされていた話と真実。その違いに翻弄され、順は罪を犯してしまいます。その後に生まれる後悔、自責の念に順は嵌まっていくのです。「青春の殺人者」というタイトルはまさにそんな葛藤を表しています。
ケイ子を演じているのが原田美枝子。(たぶん10代で)惜しげも無く魅せる裸体と小悪魔ぶりに順共々、我々も翻弄されてしまいました。現在も大活躍の原田さんはこの頃からとても素敵な女優さんでしたね。この作品には桃井かおりや江藤潤、地井武男、白川和子、阿藤海なども出演しています。
物語の中で親と子の世代差、想いの違いも垣間見えてきます。ATG(日本アート・シアター・ギルド)製作でひと筋縄ではいかないテーマ。ただ今、このような重みと疾走感を兼ね備える作品を観る事は難しくなりました。そして銀塩の味わい。やはり昭和のフィルム撮り作品はいいですね。それと”ゴジ”(本作劇中に1カットだけ登場)にはもう一本、映画を撮って欲しいです。
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