「あんのこと」を観る
今日は「あんのこと」を観てきた。覚醒剤使用容疑で逮捕された少女がそれを脱するも過酷な過去に翻弄される姿を描く実話ベースの物語。「22年目の告白 -私が殺人犯です-」の入江悠監督・脚本、ドラマ「不適切にもほどがある!」で注目された河合優実が主演を務める。
予告から予想はついたが、「ミッシング」を観た後だから余計に堪える。毒親の下、子供の頃から体を売って金を貢がされてきた主人公。刑事との出会い、セフティーネットで光明が見えてきた人生。だがしつこい毒親はそれを許さない。さらにある出来事と相まって心身共に追い詰められていく。
物語全体は「あんのこと」であり、時に佐藤二朗演じる「多々羅のこと」でもある。ラストで多々羅の発する言葉に物語の救いを求めたくなるが、それ以上に社会の歪みばかりが浮かび上がり、その大海にのまれていくような主人公の顛末。泣く事よりも考えさせられてしまった。
特に追い討ちを掛けるコロナ禍以降、行き場を失っていくあんに癒しを与える幼児との交流。それが絶たれた時、上空を飛ぶブルーインパルスの無力感。いや多くの人にとってあの行為は無力感しか無かった。ズバリ監督はその象徴として描きたかったのだろう。
事件性ある物語ゆえドキュメンタリータッチの映像。登場からしばらく暗く表情もよく見えない(メガネを忘れたのも要因だけど)。そんな彼女も職に着くと表情が現れる。そして再びあんが実家のアパートの中を歩いた時の音のリアルさにドキッとするのだ。
過酷な役であったろう河合の熱演、ひと癖ある佐藤二朗に安定の稲垣吾郎。出色はあんの母を演じた河井青葉。怖い、最悪。出てくるたび観ていて嫌になってしまう程に強烈。河井の演技があったからこそ、あんの逃避そして服従、依存の強さに気付かされる。お気楽御法度、覚悟して観るべし。
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