「ブラック・レイン」【午前十時の映画祭13】を観る
今日は午前十時の映画祭「ブラック・レイン」を観てきた。1989年公開のアメリカ映画。松田優作は公開直後に急逝。もちろん当時、劇場で観たしあれから32年も経ったのか。この作品はレーザーディスクも持ってて、昔は音響のいいシーンをサラウンドでつまみ食いしたものだ。これまでも度々観ていたが、久々に劇場での再見も発見が多かった。
まず冒頭のニック。賭けバイクチェイスは何となく覚えていたが、家族の件やレストランへ至る流れは完全に抜けていた。やっぱ松田優作登場で完全に上書きされてしまったからね。でもバイクチェイスはクライマックスの伏線だったし、警察署前でのチャーリーとのやり取りは彼が駅ナカで煽られるシーンに繋がっている。この作品、あらゆるプロットに無駄が無い。
そして意外と優作一辺倒でなく群像劇だった事に驚く。出色は刑事部長を演じた「ザ・ガードマン」神山繁の貫禄。英語も自由に操り、ニックとチャーリーを驚かせるシーンが好き。また「英語はわかんねえんだよ。日本語で話せ」のガッツ石松の存在感と表情。前振りのニセ刑事役は裕也さんでニックを騙す件はセリフ共々印象に残る。裕也さんと共に行動するのは若き國村隼だしね。
爆発するクルマの前で見栄を切るように死んでいくホタテマンこと安岡力也、そこでちょっと早めに倒れたパチパチパンチの島木譲二。ニックを恐嚇する親分、若山富三郎の凄み。そして健さんにレイ・チャールズを歌わせる。皆、水を得た魚のように堂々とした演技、個性を発揮して面白い。リドリー・スコットの演出の良さもあるのだろうなと思う。
本作はSFで無いが「ブレードランナー」と兄弟作のように思う。監督初期の光と影、そしてスモッグを多用した様式美と集大成。80年代当時の大阪の夜景、街の風景と人々の表情。劇場効果もあって何もかも懐かしく、美しく映る。さらにうどんの件はセルフパロディー。箸の持ち方を直されるシーンも可笑しい。
日本人であれば国内ロケとセットシーンの違いに気づいてしまうが、圧倒的に面白さが上回る。ニックと健さん演じる松本の別れのシーン、二人の表情を見ると涙腺が緩む。ここだけは映画の中の物語を超えてしまっている。「ブラック・レイン」は単なるバディものに非ず、日本を描き国境を超えたマスターピース。その後作られた「ラストサムライ」やドラマ「TOKYO VICE」に繋がっていく。
今や健さんを始め、多くの出演者が故人となってしまった。でもこの作品の中では皆、生き生きとしている。映画とは永遠のタイムカプセル。NHK「アナザーストーリーズ」でのアンディ・ガルシアの回顧を聞くと優作(本人は病気を隠す辛さも)との交流、チームワークの良い撮影だったのだと思う。そんなところも伝わるこの作品が好きなんだよなぁ。
追伸.
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