「怪物」を観る
今日は是枝裕和監督最新作「怪物」を観てきた。我が子が暴力を受けた母親、教師、そして子供たちそれぞれの視点で紡ぐ群像劇。今回は是枝作品初参加の坂元裕二がカンヌ映画祭脚本賞を受賞。今回のカンヌで新設された特別賞受賞は全編観るとその理由が判ってくる。
さすが脚本賞受賞とあってその作りは巧み。各パートそれぞれがお互いの行間を埋め合う事で全体の背景が見えてくる。各々に立場と理由があり、事が単純で無い事を伝える。初見、素っ気なく映る教師(永山瑛太)も組織に埋没してしまった一人。次々と明らかになっていく事実は最後に控えた真実に向かって収束していく。
これまでの是枝作品同様、子供たちの名演、その描写が時に生々しく瑞々しい。特に今回は最後の真実で今を描いている。「怪物」というタイトルに込められた意味も単純でない。それは人でもあるし、組織や階級が生む何かかもしれない。特に劇中の少年、星川依里が自らを怪物と呼ぶが、それも親や時代の価値観が言わせたものだろう。
光の中に消えていくその後の二人の友情(愛情)はどうなっていくか、もし親の立場だったら...と思う。そこまでの覚悟は...時代の過渡期であるし、それを今描く事に意味がある。それだけでなく本作の登場人物たちは善悪よりも純粋、そして顛末はやるせない。とにかくいろいろと考えさせられる作品。
この作品の描写の深みを表す上で豪華でかつ多彩なキャスティングは魅力。そんな中で冒頭のシーンの後、クリーニング屋の場面で安藤サクラと野呂佳代が密談。一瞬ドラマ「ブラッシュアップライフ」を思い出した。ああいう会話、噂話も実にリアルだな。派手さはないものの坂本龍一の音楽も印象に残った。
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