早見和真著「ザ・ロイヤルファミリー」を読む
Kindleで早見和真著「ザ・ロイヤルファミリー」を読んだ。2019年度JRA賞馬事文化賞受賞。先日、グリーンチャンネル「競馬場の達人」「草野仁のGateJ+」に早見氏出演がきっかけで読み始める。無観客開催、競馬場に行けない寂しさ...そんな気持ちも後押ししていた。
中央競馬の馬主である人材派遣会社社長 三王耕造の下、あるきっかけで経理課(=レーシングマネージャー)に招聘された栗栖栄治。ある時、牧場に務める元恋人の加奈子から一頭の牡馬を紹介される。その牡馬はロイヤルホープと名付けられた。ホープ、山王家、そしてライバル陣営、それらを栗栖=クリスの目を通して描かれていく。
最初、クリス目線で語られていく点に違和感があった。ただ語り部である事、本作が群像劇である事から必然。すぐに気にならなくなった。そして読み進める上で単なる群像劇でない事に気づく。競馬は血統のスポーツと言われる。血を紡ぐ、ホープのその先こそが読みどころとなってくる。
血統を巡る物語ながら、皆の知るサンデーやディープが登場しない架空の世界。でもそこがいい。競馬ファンならその範とした名馬をイメージできるだろう。そして言葉に著さずとも競争成績を読むだけで物語は見えてくる。これも競馬ファンならでは。
読み進めていくとまるで競馬ゲーム「ウイニングポスト」をやっている気になってくる。いや血が通った「ウイニングポスト」と言ったところ。競走馬の影に馬主、生産者、調教師、騎手らの人間ドラマがあるはず。著者は実際の大物と馬主への取材を通し、彼らの馬に対する想いが作品のセリフを通して感じられた。
タイトルの理由は推して知るべし。もちろん山王社長と家族、そしてその子耕一の物語は創作であるが、その関係性は彼らの所有する競走馬に繋がる。冒頭から散りばめられた伏線、エピソード、レースがクライマックスに結実する点が素晴らしい。ダービーではなく、有馬記念への想い。物語の背景と相まって盛り上がっていく。
相続馬限定馬主制度はこの作品で初めて知ったが、そういう事情のもあるのだなぁと納得。本作ではこの制度が重要ポイントとなっている。
競馬ファンなら読んでいて新馬戦に条件戦、レース名と共に容易にそのシーンが浮かぶ。ホープ(そして...)も紆余曲折、完全無欠な名馬でないからこそのドラマがある。そこにステイゴールドの姿が重なるのは自分だけであるまい。
競馬ファンだけでなく、もし本作で競馬に興味を持ったのなら、中継を観て欲しい。折しもG1シーズン。それだけでなく平場、条件戦に明日のロイヤルホープがいるかもしれない。そしていつか競馬場に人の生む熱気が帰ってくる事を切に願う。
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