「運び屋」を観る
盟友N氏とクリント・イーストウッド主演・監督最新作「運び屋」を観てきた。原題は「The Mule」で"ロバ"="シロウトの運び屋"という隠語らしい。NYタイムズの記事を原案とした犯罪劇。現在88才になったイーストウッド。いい意味でまたもしてやられた。
アールは家族を顧みず、花作りを生業として目立つ事に生きる男。だが仕事も下火となっていった。その最中、孫娘の婚約パーティーで別れた妻、娘と口論してしまう。パーティーを出る彼を男が声を掛ける。それこそある物を運ぶという仕事だった。引き受け、高額を手にしたアールは次、また次と続けていく。だがその荷には大きな秘密があったのだ。
前作「15時17分、パリ行き」は実験作ゆえの出来に愕然としたが、本作は映画らしい映画。カット割り、状況をテンポ良く積み重ね、説明的に陥らない。しかも観客の想像に任せて琴線に触れる。何処かの国のような顔芸に走る映画とは違う。まさに映画の教科書、手本を見ているよう。
実話がベースとはいえ、フィクションとして脚本が素晴らしい。アール、組織、ベイツ捜査官と徐々に点が結ばれ交わる様が面白い。しかも組織の言いなりにならないアールにやがてその監視者も惹かれるほど。だがDEAとの攻防、組織が潮目を迎えた時、アールの身に起こる出来事。その時、家族からの電話が鳴る。
本作は犯罪劇であるが、優れた家族再生の物語でもある。別れた妻との語らい。レストランで諭すように吐露するアールの言葉。そして万事休した瞬間、彼の覚悟。躊躇する事はない。動かされる家族の心は一つとなる。観ている側は心を鷲掴みにされた。
もちろんイーストウッドらしいユーモアも忘れていない。小粋な音楽、シリアスな展開に興奮し、時に笑い、最後は泣かされる。別に泣きの演出なんて無いのに。「ミリオンダラー・ベイビー」「グラン・トリノ」も素晴らしかったが、本作はその双璧、いやそれ以上かも。今年のNo.1作品だ。
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