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2019/03/15

「凶悪」を観る、そしてピエール瀧

シネフィルWOWOWで録ってあった「凶悪」を観た。山田孝之主演、白石和彌監督作品。実話をベースにしたフィクション。劇場公開当時、盟友N氏絶賛の映画でもある。ただ今観るにはバッドタイミング、少し勇気が必要だった。

須藤は連続殺人犯として逮捕され、死刑囚の身にあった。そんな彼からの手紙を受け、雑誌記者の藤井が面会する。そして須藤はもう一人の主犯の名を挙げ、その男の記事を書いて欲しいと依頼した。藤井は各々の事件に接点の無さを感じたが、やがて須藤の発言で点が結ばれていくにつれ、もう一人の主犯の姿に確信を持つのだった。

冒頭、須藤は躊躇いもなく次々と人を殺めていく。物語が進んでそれらの詳細は描かれていくのだが、あくまでモンタージュ扱いながら衝撃的だ。そのやり取りはまるで「その男、凶暴につき」の我妻をヤクザにしたような男。そして車中でクスリを打つ姿。何と見てよいのか。

須藤を演じるのはピエール瀧。ニュースでご存知の通り、薬物所持で逮捕された。

しかしながら本作の彼は神憑り的、一世一代の演技。獄中では険が取れた表情をするかと思えば、意に沿わない事で怒りを露わにする。家族、仲間を愛すも、情の脆さから故に舎弟の事を見誤らせ、罠に嵌ってしまう。最初に事を起こした後のパーティーシーンが特に可笑しいが、須藤の出る箇所は全て名シーンと言える。本作で瀧は助演扱いながら映画賞を総ナメ。主役の山田を喰う程の存在感を示した。

白石監督のストーリーテリングの巧さは一つの事件に二重三重の物語を重ねる事。群像劇の面白さも兼ね備える。山田演じる藤井が取材する背景、そして彼の家族。その贖罪に事件の真相に迫る執念。全体では山田、瀧は対等な立場でぶつかり、物語を進めていく。

そしてもう一人の主犯、先生こと木村が現れる。演じるはリリー・フランキー。須藤に負けない狂気。しかも土地ブローカーをやるくらいに頭がいい。木村が金の匂いを感じ、ターゲットを誘導。あらゆる方法、それが死であっても臆する事はない。ちなみにこの映画、まともな人間って出てこないかもしれない。

そして彼ら三人が終盤、別の舞台でぶつかり合う。そしてスクープした藤井の代償、単純バカに思えた須藤の真意が明らかになる。それもまた怖い。何とも言えない後味の悪さもいい。さすが白石和彌監督の作品だ。

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「日本で一番悪い奴ら」「孤狼の血」とピエール瀧は白石組の常連。同じく出演の「麻雀放浪記2020」は上映禁止の憂き目に遭うも、無事上映される事が決まった。いや無事とは言えないか。でも白石作品としては是非観たい。

初めてピエール瀧を映画、劇中で見たのは「三丁目の夕日」だったと思う。冷蔵庫の登場に寂しさを滲ませる氷屋役だった。そして映画、テレビで小さい役を積み重ね、今では欠かせない俳優になっていく。主役を張ったNHK版「64(ロクヨン)」も本当に素晴らしかった。

こうした役者に加え、本業の電気グルーヴの音楽活動にバラエティーと幅の広さ。それこそビートたけしの言う振り子の振り幅に当たる。だから魅力的に映る。でもその裏に薬物の存在があったのなら、ノーサンキューだ。

静岡県民にとってピエール瀧は特別。出身県は当然ながら「しょんないTV」の存在も大きい。隔月1回の頃から週1のレギュラー放送と楽しませてもらった。でも相棒の広瀬アナの無念の涙と共に突然の終了。こんな終わり方はノーサンキュー。

これまでこのブログでは瀧さんと敬称を付けてきた。でもこれもケジメ。後は世間と時間が判断するだろう。まずは法の下で裁かれていく。でもこのニュース以降、空いた穴に愕然とさせられた。本当に逮捕された日の朝はつらかった。もうこんな出来事はノーサンキューである。

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