「万引き家族」を観る
今年のカンヌ映画祭最高賞であるパルムドール受賞の是枝裕和監督「万引き家族」を観てきた。
この作品は観る人を選ぶと思う。主人公たちの生活は底辺そのもので、自称一億総中流、飽食の時代の日本人にはそぐわない。観るに耐えられない人も居るだろう。でも予告編でシンパシーを感じた自分は観てよかった。ところどころ描写に昭和の断片が散りばめられている。家族一同、下着姿で花火を見上げるシーンなんてやられては堪らない。
そうした描写でさえ、今の世ではファンタジー。ただドキュメンタリー畑出身の是枝監督らしく衣食住、ひとつひとつにリアリティーがあり、世界観に引き込まれる。特に冒頭、リリー・フランキー演じる父親と息子のエピソード、一方で落差ある家族の団欒。そこに至る経緯はやがて明らかになるのだが、現代の社会問題を映しつつのストーリーテリングが巧い。
そして家族六人、唯一無二の配役。リリーさんの何とも憎めない父親、母親に今最も脂の乗った女優安藤サクラ、中でも樹木希林の祖母役は絶品。まさに物語を動かす影の主役。かつての寺内貫太郎一家の老婆は心身共に演技の境界線を超えた。子役の二人も彼らに負けない存在感をみせる。家族の形として、松岡茉優演じる亜紀が浮いているようにみえるが、それも伏線。この作品のテーマでもある、"血のつながりだけではない"絆にとどまらない事を感じさせる。
やがてある事件をきっかけに家族間に起こる出来事。「万引き家族」というタイトルに必然を生む背景に、彼らの行く末の全てが明かされる訳ではないが、その行間を観客に委ねる点も好感。パルムドールという看板に負けない佳作である。
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