「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」を観る
今日は「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」を観た。今年の米アカデミー賞でゲイリー・オールドマンが最優秀主演男優賞、辻一弘さんがメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している。ヤセ型のゲイリーが見事な変貌ぶり。僅かな違和感が作品への没入を妨げるものだが、微塵も感じずに観終える事ができた。それだけでなく本作は、今年これまで観た映画の中でNo.1だ。
1940年5月英国。ナチスドイツのヨーロッパ侵攻にフランス撤退を余儀なくされ、30万の軍人たちの命が晒された状況。そんな中チェンバレン退陣に伴い、首相に就いたチャーチル。海軍大臣とこれまでの経験を買われた就任だったが、与野党を入り混じった戦中内閣である事は否めず、その足並みは揃わなかった。ドイツの侵攻と矛先はイギリスに向こうとする中、チャーチルは決断を迫られる。
原題「Darkest Hour」。世界にとって"最も暗い時"である中、チャーチルのある決断に至るまでの物語。これまで力強い手腕というイメージのチャーチルだったが、そう単純では無く、戦況と内閣での駆け引きに巻き込まれ、講和か戦争かと苦渋の選択を迫られていた。
また世間とのギャップを巡るエピソードはのちの地下鉄での出来事に繋がる。そこに至る経緯は国王との関係性が後押しするところ等、見どころは多い。ダンケルクでの救出劇、ダイナモ作戦成功は名演説へ結ばれていく。まさに言葉を武器としたチャーチルの真骨頂。スクリーンの中、ここにいるのはゲイリーでなくチャーチル、その人だった。戦況だけの音響映画「ダンケルク」と違い、本作のドラマ性こそ映画本来のダイナミズムだと思う。
この作品は単なる偉人伝としてだけでなく、チャーチルとて第二次大戦末期退陣を余儀無くされ、完璧なリーダーではなかったと伝える。そしてリーダーとしての資質、求められるものをも問い掛けている。エンディングでのチャーチルの言葉、そして決して言葉だけではない姿勢、苦境と対峙する事の大切さは昨今のリーダー論への回答かもしれない。
余談だが本作の冒頭、ちょっとした調理シーンに鷲掴みされた。そういうところも好き。また夫人を演じたのが「モンタナの風に抱かれて」のクリスティン・スコット・トーマスだとエンドロールを見るまで気づかなかった。派手さはないが、関白亭主を支える姿に好感。
我が国、身近なところを顧みてそんな人、姿が見られないのが残念。本作を観ていて、そんな苦境と我が心がシンクロした。そして本作は小さな光に思えた。大推薦である。
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