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2015/08/23

植木等主演「本日ただいま誕生」を観る

 日本映画専門チャンネルで放送された植木等主演「本日ただいま誕生」を観た。昭和54年6月公開。ただし制作会社の倒産から頓挫、再制作にこぎつけるも小さな公開に留まった作品。放送にあたり自身が「どうしても作りたかった映画」と付けられた通り、植木さんの執念がこもった作品となっている。物語は第二次世界大戦後、シベリア抑留された雄平は凍傷の末、両脚の膝から下を切断。帰国後も波乱万丈の戦後を生きた実在の僧侶の半生を描いている。

 この作品で反戦は言うまでもなく、人生賛歌を謳った作品でもある。彼が両脚を失い、戦後の混乱で戦友と出会い財産を築くも、それが私財を失うキッカケとなり、のちに妻を娶るも貧困で別離を余儀なくされる。苦しさの中で植木スマイルを見せるも、意識の根底には脚を失った事実を拠り所にしていた。それに気付く瞬間、主人公が乞食坊主から僧侶への道進んだ瞬間となる、そんな紆余曲折が描かれていく。まさに渾身の演技。本作では東宝無責任シリーズとは違った植木さんの顔が見えてくる。

 ご存知の通り、植木さんは僧侶の家の出身。今回併せて放送されたドキュメントドラマでも触れているが、演技を介した彼の父親との交流が制作目的の一つだった。それだけに一旦中止された制作を完成に漕ぎ着ける執念の一方、完成を見せられなかった失念は大きかったのではないか。しかしこの作品は晩年、名優として仕事の幅を広げるきっかけと言ってもいい。そんな本作を中村敦夫、川谷拓三、宇都宮雅代、室田日出男にクレージーキャッツの面々に大泉滉、常田富士男、戸浦六宏、若き赤座美代子ら名バイプレイヤーが支えている。

 反戦映画としてこの作品は一人の僧侶の半生を通し、戦争の持つ不条理、極限状態の出来事も描かれる。生きるために仲間を捨てる、騙す、国に捨てられる。戦争の起こす混乱に政治は無力。主人公が政治家に喰いつくのも当然。そしてその引き金を引くのも政治。専守防衛から一歩進み出たい今の政権が結論を急ぐ、性急すぎる姿勢は危険だ。国民に冷静さをみせて欲しい。行く末にこの作品の描く苦難の時が再び無ければ良いと切に願う。

150823

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