「風立ちぬ」を観る
今日は宮崎駿監督の最新作「風立ちぬ」を観てきた。実は前作「ポニョ」はいまだに未見。今回観に行ったのは少なからず、先週の引退会見が影響していた気がする。過去の引退宣言と異なりマスコミの取り上げ方も違うゆえ、興行的な影響は大きいだろう。ただこの最後の作品は作家性の強く、ファンタジックな描写はあるものの、宮崎作品らしい冒険物語はない。事前に分かっていたものの、それでも少し面を喰らう。ただテーマははっきりしており、時代を生きた、飛行機作りを我が道と進んだ男の物語である。だから本作は勘違いな中高生たちのデートムービーでもない。
主人公の声をエヴァの庵野監督が演じている事も話題。ほんの最初は違和感があったが、すぐにこのキャスティングは納得できた。何処か台詞回しに壁を感じさせるのは、明らかに狙いだ。二郎の生きた時代の、冷静ながら情熱的な技術者を演じさせるには、庵野監督の起用はウェルバランスだったと思う。あくまで主人公は大人。宮崎作品らしからぬ男女の仲もあり、庵野氏の声だからこその宮崎監督の照れ隠しにも感じた。
この作品は飛行機屋の苦悩というより、モノ作りの過程に生まれる(あくまで冷静な)ワクワク感が描かれていく。飛行機マニアの宮崎監督らしいディテールと造詣。夢が形になり、実現していく過程。そこに重なるのが、もう一人の人生。主人公は実在した零戦設計者の堀川二郎に作家堀辰雄という人生を重ねて描かれている。宮崎監督は飛行機屋の物語だけに留めず、時代を映したかったのだろう。関東大震災、世界大恐慌、第二次大戦開戦と飛行機屋の夢だけ追うには過酷過ぎる時代だ。ただ二人の人生の合成と知ってみると、そこにファンタジー色を伺わせるが、時代を描くゆえ多くの実名を扱うため、些細だが何か引っ掛かる。ただ逆に名前を変えられても違和感があるだろうから、それこそ無いものねだりかもしれないが。
宮崎作品らしく色彩感に溢れ、夢と希望のあるシーンではコントラストが広く明るく、時代性を感じさせるシーンでは色を選んで使っている。ただそこに潜んだ物語は大人こそ理解できる世界。万能な魔法はなく、夢を目指すには矛盾ある世の中。結末はあっさりと観客に委ね、物語は終わっていく。エンドロールに流れるユーミンの「ひこうき雲」が心地良かった。
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