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2013/02/09

「東京物語」を観てから「東京家族」を観る

 山田洋次監督作「東京家族」を観てきた。この作品のオリジナルは世界的な名作でもある小津安二郎監督の「東京物語」。そこで「東京家族」を観に行く朝、「東京物語」(BSプレミアムで録画したデジタルリマスター版)を鑑賞してから臨んだ。

 広島から東京の子供たちに逢いに来た老夫婦の出来事が二作に共通するプロット。二作の描く時代の違いで台詞に変更、僅かな人物変更はあるが、「東京家族」は「東京物語」の忠実なリメイクである事に気づく。日本を代表する優れたシナリオ、そして日本人の心の根底に響く不変のテーマこそがリメイクの主旨。小津作品の独特の台詞回し、画作りを踏襲し、昭和から平成、3.11後のフィルターを通して描いた「東京物語」となっている。

 本作のキャスティングは絶妙だ。朴訥とした笠智衆の雰囲気を、達者な橋爪功は自らの演技に取り込み、不器用さのある父を演じている。吉行和子の母親もいい。彼女と次男との関係性は「東京物語」との違いに思えるが、後半での出来事、橋爪功が蒼井優に語る台詞に重みを加える。現代的ながら古風を重んじる次男に妻夫木聡の起用も納得。西村雅彦、中島朋子、夏川結衣らベテラン陣は言うに及ばず。

 「東京物語」の描く家族間のドライ感と親子観、絆は不変だ。親を心配しつつ、今の自分の立場を尊む次女の姿が代表的。杉村春子の超ドライ感から比べると、中島朋子のほうが温かいがそれでもドライである事には変わらない。社会の一員となり、みづからの家族に責任を持ち、親を気に掛けつつも微妙に生じる距離。その歯がゆさ、尊さの必要性を山田監督は今に問いているように見える。ただ10年後、日本でこの価値観が通用するのだろうか?本当に心配になる。個人的には家族、子を持ち親の立場となった今、「東京物語」「東京家族」の両作に琴線を感じるのは言うまでもない。

 たぶん今の我々には現代向けに翻訳された「東京家族」のほうが観易いだろう。ただ本作を通して改めて「東京物語」という作品が分かる。先にどちらを観るも由。時代背景、台詞、画作りの違いを楽しむも由。ただ気がつけば物語に魅せられる、だから名作なのだ。

130209

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