「超合金の男 -村上克司伝-」を読む
アニメや特撮番組制作者と玩具メーカーの関係は切っても切れない。富野由愁季氏が、作品製作における両者の軋轢を吐露していたが、それを知って以来、何処かしら、玩具メーカーに対して偏見を持っていた。実際そのように世に出た玩具は少なくなく、現在一人歩きしたガンダムシリーズ等例に漏れず、そこには玩具メーカーの圧力が見えてくる。しかし両者の関係に軋轢でなく、むしろクリエイティブな相乗効果を生み、エポックメイキングな玩具を提供してきた時代もあった。その中心に居たのが、本著の主人公、村上克司氏である。
バンダイの人気玩具の代名詞、超合金。常に革新的なアプローチの影に村上氏があった。デザインの裏には子供を喜ばせる仕掛け、テレビ画面と玩具を結びつける驚きに溢れている。デザイン重視となれば、変形や遊びに目を瞑るところ。彼にそんな考えは無く、デザイン上成立している事は手元の玩具で実現させる。そんなコンセプトに基づき、番組の企画段階から参画。ただスタッフロールに乗る事も無く、知る人ぞ知る存在であった。「勇者ライディーン」「超電磁ロボコンバトラーV」「ゴールドライタン」「六神合体ゴッドマーズ」等合体、変形、コンビネーション、どれもが革新的な遊びを提供してきた。
それだけでなくその手腕、デザイナーとしての目線が素晴らしい。特に「宇宙刑事ギャバン」のコンセプトイメージは、当時衰退期にあった東映特撮ヒーローの息をふき返らせる。メタリックヒーロー、デザイン、演出と斬新な作品開拓に一役買った。その渦中での村上氏の言葉、「俺がギャバンだ!」には唸らされる。この本では、同様にそれぞれの作品とエピソードで繋ぎ、村上氏の姿に迫っている。それだけでなく、玩具、アニメ、特撮好きにはたまらないエピソードでいっぱいだ。
冒頭、玩具メーカーに対する偏見を述べたが、本書でそれを一蹴する熱意と常にクリエイティブである村上氏に圧倒された。もっとも今もマーチャンダイジングありきの戦略は絶えない。しかしその玩具に子供たちの姿が見えた時、村上氏、あるいは村上イズムの継承者たちによるものなのだろう。玩具は遊びを追求する、あるいは遊びを提供するものでなければならないのだ。幼少期、「勇者ライディーン」の超合金を手にした日の事は忘れない...彼の玩具、超合金に育てられた子供たちに捧げられた本である。
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