「おくりびと」を観る
個人的、しばらく日月休みが繰り返される中、妻と息子に暇をもらい、「おくりびと」を観てきた。ご存知、今年の米アカデミー最優秀外国語映画賞を受賞した作品だ。公開当初に観る機会を逃して消沈していたところ、半年経って凱旋上映のチャンスに恵まれた。今やDVDもレンタル、発売されているが、劇場で観たい、そして期待に応える作品であった。
リストラに遭ったチェロ奏者が、故郷に帰り、納棺師という職業に出会う。そんな中の出来事を描いた物語である。ただ物語に目新しさはない。人物相関、ストーリー展開は想定内で進み、そこに逸脱は一切無い。なのにこの作品の惹き込む力は凄い。脚本、演技、演出、音楽、全てが噛み合い、相乗効果を生んでいるようだ。そして死と対峙しながら、笑いのスパイスを効かせる。これもオーソドックスな日本映画のスタイルといえるだろう。
助演の山崎務の存在感は言うに及ばず。観ていて思ったのは、彼のフィルモグラフィーが投影された感が強い事。かつての伊丹映画を彷彿とさせるシーンも少なくない。この作品における、食に対する姿勢は明らかにそれだし、故・伊丹監督の第一作が「お葬式」だったのも単なる偶然か。人間の欲に対する姿勢、そのストレートさ加減も何故か似ている。職業に悩む主人公が妻に溺れようする様を観ていて、ある種の興奮を与える。
驚いたのはそんな相手、妻役の広末涼子の事。彼女の演技は一見、通り一辺倒に思える。しかしそのシーンの受身だけでなく、物語に沿って2008年、今を生きる妻を演じている。この作品が10年前を描いたものであるなら、彼女は明らかにミスキャストとなるだろう。今という時代を映す、しかも映画で成立できる、数少ない女優さんかもしれない。彼女に時代物は似合わない。
企画から立ち上げた、主演の本木雅弘にも敬服する。その視点もさることながら、本作のシリアスとユーモアを見事にバランスさせた一人でもある。おめでとうアカデミー賞!。脚本の小山薫堂は、さすがあの「カノッサの屈辱」を手掛けた才人。オーソドックスながら、脚本におけるディティールの細かさが素晴らしい。彼が仕掛けた唯一隠し味となる配役、笹野高史の存在も見逃せない。これには正直参った。本当に参った。
タイトル通り、死と対峙する悲しい題材ではあるが、常に何処か温かい。観て損なし、是非劇場で観て欲しい。
| 固定リンク
コメント