「007/カジノ・ロワイヤル」を観る
左腕にオメガシーマスターを着け、盟友N氏と待望のシリーズ第21作「007/カジノ・ロワイヤル」を観てきた。本作は待望する所以、それは我が思春期において、ガジェットの面白さと大人の男の世界を魅せてくれた事だ。前者はシリーズを通して常に徹底され、後者は初代ショーン・コネリー以降、代を重ねても引き継がれていたスタイルだ。だが近作は荒唐無稽さに拍車が掛かり、シリーズのファンであっても不満を漏らす事は少なくなかった。特に前作では愛車がステルス機能で目の前から消え、見どころだったアクションさえもVFXを用い、スタントマンを必要としなくなった。同時にボンド映画の精神は消えかかっていた。
だがその懸念は本作が始まって間もなく、杞憂に終わった。禁じ手とも思われるモノクロ映像、だが00昇進のためにボンドの野心はターゲット暗殺に進んでいく。そこでの冷徹さはこれまでのボンド映画に相通じるが、その全てのキッカケである以上、描き方も血生臭い。だがその一方で呆気無さはまさにプロの殺し屋。ダニエル・クレイグはスピルバーグの「ミュンヘン」で似たキャラを演じていたが、その時もボンドに期待を持たせる雰囲気が光った。別にブロンドヘアも東ヨーロッパ的な顔立ちも気になりません。
だがそんなシリアスな雰囲気から、ボンド映画らしいテンポの引き戻しも忘れていない。それが今回の主題歌とオープニングロールだろう。クリス・コーネルの歌うテーマ(音楽担当デビッド・アーノルドとのコラボ)はテンポ良く、キッチュながら凝ったアニメーションはモーリス・ヴィンダー(あのガンバレルのオープニング等を作った先駆者)以前、以後とも違った雰囲気を醸す。それはこれまでのシリーズとの決別でなく、新シリーズとしての第一歩だと感じた。
圧巻は今回のボンドはとにかく走る、走る、走る。それゆえ前述の懸念が消えたのも当然といえる。00(あくまでダブルオー、ゼロゼロセブンではない)昇格後の初ミッション、黒人の爆弾魔を追い駆ける姿に観る者はみな釘付けだろう。そこにあれだけ頼っていたVFXの影は無い。いや、あったとしても判らない程、そのテンポとキレに惹き込まれる。これは我々ファンが望んでいた原点回帰、一つの回答といえる。一つのアクションが終わるまでの緊張感は、ボンド映画の醍醐味だからだ。やっとそれが帰ってきた感が強い。ダニエルのフィジカル面の対応も素晴らしい。
ガジェットも控えめ。音楽もボンドのテーマを多用する事はない。それはシリーズ第一作「ドクター・ノオ」に相通じるもの。そしてそれは「ゴールドフィンガー」以降の物語成功の方程式、定石を踏む事がボンドに非ず、人間ボンドを描いてこそ007なり、そんな意気が伝わってくる。それでいい、だからボクはこの作品を素直に受け入れる事ができた。「ボーン・アイデンティティー」シリーズのようにアクション回帰、そんなハリウッド産のスパイ映画に刺激を受けた本家007だが、最高の形で応えてくれたと思う。版権問題で最新作となったイアン・フレミング原作第一作、だがその機会を最大限に活かした形だろう。
グラマラスさを求めてきた過去のボンドガールと異なり、今回のエバ・グリーンは知的さが漂い、ここでのエピソードがのちのボンドの冷酷さを形作った事を印象付ける。ボンドにとって恋愛感情は御法度の感が強いが、「女王陛下の007」以来(原作のエピソードとしては本作が先)に心から女性を愛する姿が描かれていた。脚色に「クラッシュ」「ミリオンダラー・ベイビー」のポール・ハギスが参加しているが、彼の毒気が所々に活きているような気もする。
もちろん007らしい大味さはあるのだが程よい味加減、荒唐無稽さも兼ね備える。あまり好きでない「ゴールデンアイ」のマーティン・キャンベルが再びメガホンをとったが、本作はアクションシーンのカット割りの良さが特にいい。さすがイギリスのテレビシリーズ「特捜班CI-5」を撮った人だ(ただ「ゴールデンアイ」のダメさは音楽エリック・セラによるところが一番大きいのだが)。デビッド・アーノルドのスコアもボンド色は控えめながら、相変わらずジョン・バリー節を継承したオケが光り、ボンド映画のアイデンティティーを形成している。
全てに挑戦的、野心的な今回の007。これまで何度かの転換期を迎えてきたが、その中でも屈指の作品であり、満足度も高い。これまでのクラシック・ボンドから、本当の意味でのニュー・ボンドに生まれ変わった。既にダニエル・クレイグは次作の契約済。ただ本当の正念場はボンド前日談である本作でなく、実は次作からなのかもしれない。でも期待して間違いない、そんな方向性が見えてくるボンド最新作だ。
追伸.
ニュースなどで『ソニーに買われたボンド』と揶揄されたが、バイオにソニエリ、ブルーレイとこれでもかとソニー製品が登場する。特に諜報活動時にバイオノートのキーを叩くボンドの姿に時代を感じてしまう。ただ『ソニーに買われたボンド』でなく、『ソニーを選んだボンド』と呼ばれて欲しい。ちなみに劇中バイオのバッテリーは発火する事が無かったし、PS3も登場しない。ちなみにこのブログはバイオノートで書かれています。
James Bond will return...
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コメント
でんでんさん!こんにちわ。
すいません。またTBしてしまいました。削除お願いします(冷汗)。
前半の高所シーンなんかはすごく迫力があって面白いなぁ~って思ってたんですけど、後半は緩くなってきましたよねぇ~。
これは007シリーズでは当たり前なんですねぇ~。知りませんでした(笑)。もっと勉強します!
投稿: あっしゅ | 2006/12/16 14:22
あっしゅさんこんにちは。
トラックバックありがとうございます。
>これは007シリーズでは当たり前なんですねぇ~。知りませんでした(笑)
後半は大きなセットで...っていうのが、大作となったボンドのお決まりなんです。沈み行く建物を見て、ちょっとミニチュアっぽいのも、何となく意図的かなぁと(苦笑)(^^ゞ
投稿: でんでん | 2006/12/16 15:17
ほとんど話題にのぼりませんでしたがダニエル・クレイグ主演のレイヤー・ケイキという作品もおすすめです。 ついでにこの映画のサントラもおすすめです。 デュラン・デュランやカイリーミノーグ・カルトXなど80年代のヒット曲が満載です。 ダニエル・クレイグは年齢不詳な顔立ちと目が嫌いです。 あとソニーの製品はデザインばかりで消費者に対する態度に幻滅してしまいました。 私のバイオは保障期間中に1度、期間を過ぎて3度故障しました。 毎回原因の説明はなくハードディスク交換という処置3回で合計18万円かかりました。 今回ようやく問い合わせに対して原因はバッテリーの異常加熱によるハードディスク故障だと白状しましたが、ここにたどりつくまでに相当な長い時間がかかりました。 電話のたらいまわしは数十回、ひどいときにはスピークイングリッシュという音声ガイドにあきれはてました。 ソニーは大嫌いです。 今後一切ソニー製品を購入することはありません。
投稿: マヌケ | 2006/12/16 21:20
でんでんさん、おはようございます。
コメント&TBありがとうございます。
僕の場合、ブロスナンのイメージが強すぎていまいち乗り切れないところもありました。
けれども前半の追いかけっこはなかなか見所ありました。
007シリーズはオープニングで大掛かりなアクションを持ってくることが多いので、このあたりはボンドらしいなという感じでしたね。
後半はややくどい感じが・・・。
相手が次から次へと変わっていくので、まだ続くの?という感じは受けました。
脚本的にはどんでん返しのつもりかもしれないのですが、ややくどかったですね。
投稿: はらやん | 2006/12/17 07:10
マヌケさん、はらやんさんこんにちは。
トラックバックありがとうございます。
マヌケさんへ
>ソニーは大嫌いです。
今のソニーは嫌いです。PS3も一度ネットでバスケットに入れたものの、止めてしまいました。マーケティングより、始めに何が必要なのか立ち返って欲しいです。昔はそれがあってのビックリ箱でしたから(^^ゞ
はらやんさんへ
>後半はややくどい感じが・・・。
整理すれば、だいぶ見直すことができたかもしれませんね。ただ旧作とちがって「ラスボス殺せば」っていうタイプの作品にはしたくなかったのでしょう(^^ゞ
投稿: でんでん | 2006/12/17 08:15