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2006/12/09

「硫黄島からの手紙」を観る

 今日は「硫黄島からの手紙」を観てきた。死闘といわれる硫黄島の戦いを双方の視点で描こうという初の試み、「父親たちの星条旗」との兄弟篇。前作同様、今回もクリント・イーストウッドの枯れた味わいながら、35日間戦い抜いた武勇伝ではなく、そこにあった壮絶な戦いのみが描かれる。ポール・ハギスによる毒は前作以上に織り込まれ感が強く、兵士たちに過酷な運命をもたらしていく。それは名将と言われた栗林、馬術五輪金メダルを持つ西、そしてその顛末を見届ける西郷らへ冷酷に訪れる。

 先に観た「父親たちの星条旗」米軍側の戦況と違い、本作は硫黄島の日本兵たちがどのような末路を辿ったかという視点に立つ。そこにある彼らの志(こころざし)は気高く、そして懐(ふところ)の広い見識の下に立っている。栗林や西は、アメリカの文化に触れた経験が大きいだろうが、現在の我々の視点からみても彼らの言葉に異論は感じない。また相変わらず旧態依然の軍部、士官の言動に不快感を覚えるが、あくまでそれは時代と大国の潮流ゆえという事を忘れてはならない。

 しかしそうした理想も、すり鉢山が陥落した後から大きく崩れる。いや戦況の悪化を感じた時から、志を貫く事に徹し始めていたのだと思う。それは個人的な戦い、彼らの家族、部下に向けられたものであり、儀礼的に繰り返される言葉(...万歳)の数々が空しい。そしてその空しき言葉の後、信管を抜き絶叫、覚悟と共に消えていく命に目を覆いたくなる。しかし狂気の中、これも現実。いや突きつけられる出来事を直視しなければならない。それにしても激しく痛ましい瞬間だ。

 この映画を鑑賞後思ったのは、愛国心の前にあるべき家族愛の姿。自決した兵士も、栗林も皆、国の家族を思って戦っていた。ラジオから流れる唱歌の向こう、きっと彼らの家族がいたのは言うまでもない。ただ正義の戦争なんかありゃしない。あったとしても、必ず何処かで腐り始める。憲法第九条、改憲が叫ばれる中、もう一度考えてみたい。だが人は同じ過ちを繰り返し続けるのだろう。それが歴史が言い表している。そのジレンマをこの作品を観ていて感じた。我が国の宰相が考える『美しい国』とは...愛国心で駆り立てようが、まず目の前の家族を大事にしたい。

 イーストウッドの思い、キャストやスタッフの思いは「父親たちの星条旗」以上に伝わってくる。もちろん日本を題材にしただけにセリフや背景も伝わりやすい。渡辺謙ら異国の俳優達からこれだけ力強い演技を引き出したイーストウッドは、さすがオスカー監督の貫禄。そこに違和感は感じない。この作品に大和魂を期待した人には悪いが、ボクも同様に国よりも家族を大切にしたいと思う。そしてイーストウッドがこの『日本映画』を撮った志を感じたい作品だ。

Lettersfromiwojima

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コメント

でんでんさん、コメントありがとうございます!

この映画では勝敗は関係なく、日本、アメリカ両国の兵士達が思っていたことは同じだったことを言いたかったのでしょうね。
何の利益にもならない戦争、、、。
早く平和な世界が訪れることを祈りたいですね。

投稿: あっしゅ | 2006/12/17 01:02

あっしゅさんこんにちは。
コメントありがとうございます。

>何の利益にもならない戦争、、、。

その後に残る多くの哀しみを考えれば、無くなって欲しい。過去の犠牲者の思いが伝わって欲しいです。

投稿: でんでん | 2006/12/17 08:09

痛いくらいに伝わってきましたね。
これだけでなく、「父親たち~」の米兵たちの痛みも・・・
戦争で幸せになる人はどこにもいない。
そんな当たり前のことを、これほどまでの説得力で描き出したイーストウッドには、ただただ脱帽です。
多くの人に、硫黄島で眠る人々の想いが届きますよう。

投稿: ノラネコ | 2006/12/17 17:00

こんばんは。「靖国で会おう!」と言いながら、魂は家族の元へと帰っていったのではないかと思います。手紙のあて先の元へ・・・

TBさせていただきました。

投稿: カオリ | 2006/12/18 21:14

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