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2006/11/04

「父親たちの星条旗」を観る

 今日はクリント・イーストウッド監督作品「父親たちの星条旗」を観てきた。ご存知の通り、あのスピルバーグが製作、イーストウッドと共同で硫黄島二部作として描かれる第一弾だ。本作、ほとんどが日本人キャストで描かれる第二弾「硫黄島からの手紙」と、ハリウッド的にはけっして興行的、華やかさに富んだ作品とはいえない。だが作品を冷静に見つめるイーストウッドには不可欠な要素、そしてスピルバーグには自ら冷酷に突き放して描いた「ミュンヘン」同様のテイストも感じる。

 本作のポスターにもなっている、見覚えのある星条旗掲揚。確かにそこに秘められたドラマがこの作品の筋である。しかしイーストウッドは反戦だけを求めず、そこに兵隊たちの志(こころざし)を映していく。それは戦争に参加する志でなく、その後の志の変化にある。それだけに英雄として祭り上げられる三人の帰還兵たちは滑稽で悲しい。そこには立志する野望、民族の壁、それらを冷静に見守る目があった。その一人ブラッドリーの息子の目を通して、徐々に運命の時に近づき、その志は親子の絆を経て昇華されていく。

 序盤、数多くの登場人物が登場するが、ほとんどが戦渦に消える(親切なのか、やたら登場人物らに名前[日本語字幕のみ]が出るが、必要性を感じない)。その凄まじさはあの「プライベート・ライアン」の冒頭シーンに勝るとも劣らない。大々的に展開される硫黄島攻略は、三日という制限されたものであった。そして一枚の写真が国を動かす、だが偶然の産物であった一枚の写真、そしてその裏での真実。やがて敵味方の見境が無くなった時、無駄に命は失われる。

 そんな死んでいった彼らの志を背負い、三人の帰還兵たちは国の政策に巻き込まれていく。国の客寄せパンダと化した三人の末路、硫黄島をめぐる米兵たちの運命に、ポール・ハギスらしい脚色が垣間見える。そして一ヶ月以上に渡る激戦が生んだ兵士の志は、果たして活かされたのかと問いかける。ただ戦争を描いた作品として異色の存在となろう。まして直接的な愛国心に溢れた本国アメリカでの評価はどうなのだろうか。むしろアメリカから生まれたこの作品の存在意義を高く評価したい。

 なおこの作品では日本兵の心情は一切描かれないが、イーストウッドは「硫黄島からの手紙」との連作という初の試みでその回答に応える。渡辺謙以外は日本ならまだしも海外的にほとんど無名。そんな全編日本語の作品を彼がどのように手掛けるか。外国人が日本俳優を演出するケースは、ミュージカルや舞台で少なくないが、御大ならきっとこなしてくれるはず。二部作を結ぶ、その仕上がりに期待したい。

061104

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コメント

日本兵との絡みが、第2作目で繋がってくるのでしょうかね・・・

「プライベートライアン」思い起こさせますよね。でも、こちらのほうがあえて淡々と描いていると思いました。イーストウッドが光を当てたいことはなんだったのか・・・2作目が待たれますね。

TBさせていただきました~

投稿: カオリ | 2006/11/07 16:18

カオリさんこんにちは。
コメントありがとうございました。

>日本兵との絡みが、第2作目で繋がってくるのでしょうかね・・・

二作の共通項、硫黄島、同じロケーション、一つの死闘。国違えど失った命への鎮魂歌。本当に公開が待たれますね。

投稿: でんでん | 2006/11/18 11:42

こんにちは♪
いつもお世話になっております。
「硫黄島からの~」の予告編では、「父親たちの~」に出て来たのと同じアングルの映像があったように思います。
同じ場面を日米双方の視点から見ることができるなんて本当に素晴らしい試みですよね。
あと数週間待ちきれない思いです。

投稿: ミチ | 2006/11/19 10:29

☆でんでんさん、大変ご無沙汰しておりました。

エントリー、味読させて頂きました。兵士たちの「志の変化」に触れられたくだりに惹かれ、それを見据える者(たち)の視点の指摘に説得力を感じ取りました。

>…そこには立志する野望、民族の壁、それらを冷静に見守る目があった。
>その一人ブラッドリーの息子の目を通して、徐々に運命の時に近づき、
>その志は親子の絆を経て昇華されていく。

僕も、主人公に扮したライアン・フィリップの印象深い眼差しが忘れがたく、また、息子ジェイムズが退役軍人に取材する過程で示されて行く回想の中に於いては、父親が見、体験したものに触れて行かんとするジェイムズの意志を感じ取れもし、そして、主人公が息を引き取る前に話した「海水浴」のイメージを擁したエンディングに於いて父子が共有し得たものの示唆に僕の心も昂揚しました。そして、エンディングでの主人公をも含めた多くのものを俯瞰する視点には殊更に心掻き立てられ、鑑賞後も、尚、無意識に思いを及ぼすような按配です。

―それではまた!

投稿: ダーリン/Oh-Well | 2006/11/21 10:35

でんでんさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

愛国心というのは、良い国であれば自分の中で自然とわき上がってくるもので、強要されたり、愛さねばならないと言われるものではないですよね。
今週末公開の「硫黄島からの手紙」では、どのように描いているのでしょう。

投稿: はらやん | 2006/12/07 21:56

ダーリンさん、はらやんさんこんにちは。
コメントありがとうございます。

ダーリンさんへ
>エンディングでの主人公をも含めた多くのものを俯瞰する視点には殊更に心掻き立てられ、

この作品、激しさと静寂のコントラストの最たる部分ですね。二部作を通して言いたい家族愛を示したシーンでもあります。

はらやんさんへ
>愛国心というのは、良い国であれば自分の中で自然とわき上がってくるもの

これも二部作に相通じるテーマですね。この国、日本が危険な方向に行かない事をただ祈るばかりです。

投稿: でんでん | 2006/12/16 08:51

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