「出口のない海」を観る(ちょっとネタバレあり)
今夜はシネマサンシャイン沼津のレイトショーにて、横山秀夫原作の「出口のない海」を観てきた。原作は未読だが、同じ横山氏の「クライマーズ・ハイ」のように史実をフィクションで描いた作品だ。史実とは第二次世界大戦、『回天』と名付けられた特攻魚雷の存在。つい特攻というと神風特攻隊が頭に浮かんでくるが、この作品では同じ過酷な運命を背負った、海の特攻兵器が描かれている。『回天』はその死を代償に、人の操縦で敵艦隊にダメージを与える必中の最終兵器というわけだ。
しかし"必中"とはいいつつ、その操縦は複雑を極めていた。訓練で操縦者は木で作られた筐体を操作する中、混乱に陥ってしまう程。複雑な手順、融爆の危険、それ以上に敵艦船へ特攻を成功させる難しさ。無事に操縦する『回天』を発進、いや発射させる事すら容易くないのだ。そして訓練の果て、任務に赴く彼ら。艦長から発射を言い渡される瞬間、操縦者の心中を様々な思いが駆け巡っていく。
この作品は『回天』という存在だけを描くのではなく、そこに命を捧げた若者の思いも訴えかける。おそらく原作のフィクション部分となるところだが、そこは実際のエピソードが散りばめられているのだろう。野球に情熱を注いだ主人公が魔球完成に思いを寄せる姿、それだけでなく若者たちの様々な夢が虚しく消えていった。彼らの思いに反し、軍神の数は増えていく。それだけでなく、軍神になる事にしか活路を見出せなかった悲劇も描かれる。
甲子園を優勝、しかも大学野球を沸かせた主人公。自分の投じる球に自信を持つプライドの高さが、そんな彼を演じた梨園のプリンスたる市川海老蔵に重なる。世間の噂から高飛車な印象のあった海老蔵だったが、並木浩二の心境の変化をうまく表し好演。特に出撃を阻まれた出来事を挟み、吐露する本心が痛い。回天の中で静かに眠る表情が美しくも悲しく映る。そして投じられた「魔球達成」と書かれたボールは、主人公の夢が今に甦った瞬間かもしれない。
主人公は父の言葉を介し、戦争の大義、国同士が戦う事に対し、「お前は敵を見たことがあるか」と諭す。この作品の語りたい反戦は、消えていく若者たち一人一人の夢と笑顔の数だけ大きい。泣きを誘った「半落ち」と異なり、佐々部清監督の抑えた演出が光る。改憲、憲法第九条の存在が問われる中、この作品の頑なにストレートな主張は貴重だと思う。派手な大作ではないが、命を懸けた青春、緊張感が伝わる佳作である。
追伸.
この作品を鑑賞にあたり、その真後ろの席に場違いな大家族が陣取った。小さい子供には不向きなテーマ、しかも夜遅いレイトショー(20:45スタート)なのに、赤ん坊は泣かすし、子供はゲームを音を立てて始め最悪。すかさず注意したが、一応父親はゲームを取り上げ沈黙、母親は赤ん坊をなだめて右往左往。いや正確に言うと、階段を上り下りし、場外へ出たり戻ったり落ち着かない。それでいて謝るひと言は無い。連れてこられた子供に罪は無いが、この夫婦のあまりの常識の無さに呆れた始末。そんな最中の鑑賞ゆえ、感動が薄れた可能性がある事を記しておきたい。また劇場も赤ん坊を入場禁止にしたり、時間帯を考えた入場と配慮が欲しい。

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受信: 2006/09/17 10:31
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受信: 2006/09/17 12:59
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出口のない海
上映時間 2時間1分
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出演 市川海老蔵、伊勢谷友介、上野樹里、塩谷瞬、香川照之
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GTFで観賞。「ただ、君を愛してる」の次の上映なので、エンドロールを見ずすぐにまた階段に並ぶ。しかし、1時間のイン....... [続きを読む]
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» 出口のない海 [BLACK&WHITE]
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監督:佐々部清
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受信: 2006/09/17 20:58
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8月15日にも紹介、午後十時の記事でも前説はしたので、いきなりレビューといきましょうか肥後橋のリサイタルホールにて。前に日本沈没試写会で訪れてひとりで感動してたとこです今日もわりといっぱい入ってましたが、youとともに真ん中のナイスポジションで観れましたよ [続きを読む]
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受信: 2006/09/19 10:23
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市川海老蔵を主演に
最後の秘密兵器「回天」の
乗組員を
伊勢谷友介・柏原収史・伊藤充則が演じます。
共演に、上野樹里・塩谷瞬などの若手を中心に
演技者揃いの作品です。
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1945年、夏――それでも青春だった。
... [続きを読む]
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『出口のない海』?
公式HPはこちら
●あらすじ
1945年、脱出装置の無い爆弾兵器、回天を操ると言う極秘任務で潜水艦に乗艦した甲子園投手の並木(市川海老蔵)を初めとする4人の若者。大事な家族や恋人との係わり合いを持ちつつ彼らは、死を覚悟して・・・・・・・... [続きを読む]
受信: 2006/09/24 01:11
» 出口のない海(映画館) [ひるめし。]
1945年、夏―――それでも青春だった。
製作年:2006年
製作国:日本
監 督:佐々部清
出演者:市川海老蔵/伊勢谷友介/上野樹里/塩谷瞬/香川照之
時 間:121分
[感想]
市川海老蔵と上野樹里って恋人同士というよりか兄妹だろ!?っと思ったわ・・・。
ちょっと年齢が離れすぎているよね・・・。
人間魚雷「回天」のお話。
この映画で初めてそういう兵器があることを知った。
だって学校で習ったことないんだもの... [続きを読む]
受信: 2006/09/24 13:10
» 出口のない海 [きらくに、きままに・・・]
本日、特にやることもなく、映画を見に行ってきました。
みた映画は、
「出口のない海」
甲子園の優勝投手が軍人となり、最終兵器の“回天”に乗ることに・・・
「お国のために死ぬ・・・」
“神風特攻隊”敗戦濃厚の日本の手段の一つとして、おいらでも知っていましたが、
こんな海の底から、人間魚雷“回天”の存在は今まで知りもしませんでした。
まぁ、あの頃の日本人は死をも恐れず、散っていったと聞いていましたが、
そ... [続きを読む]
受信: 2006/09/24 19:29
» 『出口のない海』 [mimiaエーガ日記]
★★★☆1945年太平洋戦争も末期、極秘任務を負った4人を乗せた潜水艦が進む。 [続きを読む]
受信: 2006/09/24 23:23
» 『出口のない海』 [アンディの日記 シネマ版]
泣き度[:悲しい:] 2006/09/16公開 (公式サイト)
青春度[:よつばのクローバー:][:よつばのクローバー:][:よつばのクローバー:]
満足度[:星:][:星:][:星:]
【監督】佐々部清
【脚本】山田洋次/冨川元文
【原作】横山秀夫 『出口のない海』(講談社刊)
【出演】
市川海老蔵/伊勢谷友介/上野樹里/塩谷瞬/柏原収史/伊崎充則/黒田勇樹/平山広行/尾高杏奈/永島敏行/田中実/高橋和也/平泉成/嶋尾康史/香川照之/古手川祐子/三浦... [続きを読む]
受信: 2006/09/26 23:05
» 出口のない海 [まぁず、なにやってんだか]
新聞屋さんにチケットをもらったので、「出口のない海」を観に行ってきました。
戦争ものは泣いてしまうのがわかっているので、今日はタオル持参で。
並木(市川海老蔵)と北(伊勢谷友介)の会話ってキザっぽくてバンカラを意識しているのか、棒読みなのか微妙な感じでした。鹿島・イ号潜水艦艦長(香川照之)はさすがの貫禄。命令するのもかっこいいです。人間魚雷「回天」の扱い方を指導する高橋和也は、「とても若い指揮官」っていう感じでした。身長のせい?海老蔵より小さいから、若く見えるのかなぁ(先日、フジテレビ「ごき... [続きを読む]
受信: 2006/09/27 21:59
» 『出口のない海』 [京の昼寝〜♪]
その日彼らは死ぬために回天に乗った。愛する人を人たちを守れると信じて・・・。
■監督 佐々部清■原作 横山秀夫(「出口のない海」講談社刊)■脚本 山田洋次・冨川元文■キャスト 市川海老蔵、伊勢谷友介、上野樹里、塩谷瞬、香川照之、古手川祐子、三浦友和□オフィシャルサイト 『出口のない海』 1945年、極秘任務で潜水艦に乗艦した甲子園投手の並木(市川海老蔵)をはじめとする4... [続きを読む]
受信: 2006/09/29 12:09
» 出口のない海 [欧風]
映画観まくり週末、土曜は八戸フォーラムで「フラガール」、「時をかける少女」、「アオグラ」。日曜日はイオン下田TOHOシネタウンでまず「ラフ」を観る。
そして2本目に観たのが、「出口のない海」。これは第2次大戦の終盤、苦しくなった日本は、飛行機に爆薬を沢山積んで敵艦に突っ込むという特攻攻撃をするようになりました。いわゆる「神風特攻隊」は有名ですね。その他にも特攻兵器がいくつか開発されたんですが、そのうちの一つが、1人乗りで敵艦に突っ込む潜水艦、「回天」。これは知らない人も多いんじゃないでしょうか... [続きを読む]
受信: 2006/10/01 10:23
コメント
こんにちは。常識のない親について敏感に反応したぷくちゃんです。
皆さん、子供はしかっても、迷惑をかけた方に謝る事はしませんよね。私も以前、映画中ずっとメールをやっていた女性に殺意を覚えた事があります。(爆)
>シネマサンシャイン沼津のレイトショー
近くなので行って見たいのですが、劇場の雰囲気はどうでしょうか?
投稿: ぷくちゃん | 2006/09/17 08:39
ぷくちゃんさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
>近くなので行って見たいのですが、劇場の雰囲気はどうでしょうか?
首都圏のシネコン並みにキレイで、映像と音に迫力がありますよ。シネコンらしく前後の席の高差があって、前の人の頭を気にする事もありません。後は観客のマナー次第...というところでしょうか(苦笑)(^^ゞ
投稿: でんでん | 2006/09/17 10:26
こんにちは♪
TBありがとうございました。
伊勢谷クン演じる隊員が「軍神にならねば云々・・」というセリフは重かったです。
死に急ぎという言葉では表せない何かがありましたね。
靖国参拝の問題も絡めて、やはり見ておかねばならない類の作品だと思います。
投稿: ミチ | 2006/09/17 10:35
ミチさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
>靖国参拝の問題も絡めて、やはり見ておかねばならない類の作品だと思います。
靖国を語る政治家も歴史学者も今や戦後世代。この戦争の様々な代償をこの作品を通して考えてみたいです。
投稿: でんでん | 2006/09/17 10:55
でんでんさ~ん
こんにちは!
あ、いい写真ですね!いつもGoogleのイメージ検索かけてるんですがこれはありませんでした。いいなぁ、どこからの出典ですか?
出撃シーンに胸がいっぱいになりました。監督の戦争を忘れてはいけないメッセージはしっかり受け止めましたが・・・。
投稿: mimia | 2006/09/24 23:35
mimiaさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
>いいなぁ、どこからの出典ですか?
Yahoo映画の作品紹介の写真から使いました。とはいえカラーだったので、劇中同様にセピア色に加工しています。
投稿: でんでん | 2006/10/01 23:56
TVで初めてこの映画をみてかなり泣きそうになりました。。
映画の中でもあるように、このような"事実"があった。ということの後の世に伝えなければならないと思います。最近ではアメリカと戦争したことすらしらない平和ボケした日本人が渋谷にいるようですが、、まぁそれはそれで平和になったってことですがね。
繰り返してはいけない。
と言うものの、戦争が絶える事は99.98%ない、と私は思います。むろん日本も同様だと思います。アメリカは戦争ばっかして戦争が好きなんだ。少し違います。
戦争をしないために戦争するのです。多少歴史とか勉強すれば意味がわかると思います。 なぜ軍や兵器を持つのか、その答えは"平和を望むなら戦争に備えよ"という言葉の中にあります。第一次ころのスイスがそれを物語ります。 戦争の歴史を勉強すればTVではわからない本当の"事実"が見えてきますよ
投稿: ぺすけ | 2007/08/19 23:46