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2006/09/16

「出口のない海」を観る(ちょっとネタバレあり)

 今夜はシネマサンシャイン沼津のレイトショーにて、横山秀夫原作の「出口のない海」を観てきた。原作は未読だが、同じ横山氏の「クライマーズ・ハイ」のように史実をフィクションで描いた作品だ。史実とは第二次世界大戦、『回天』と名付けられた特攻魚雷の存在。つい特攻というと神風特攻隊が頭に浮かんでくるが、この作品では同じ過酷な運命を背負った、海の特攻兵器が描かれている。『回天』はその死を代償に、人の操縦で敵艦隊にダメージを与える必中の最終兵器というわけだ。

 しかし"必中"とはいいつつ、その操縦は複雑を極めていた。訓練で操縦者は木で作られた筐体を操作する中、混乱に陥ってしまう程。複雑な手順、融爆の危険、それ以上に敵艦船へ特攻を成功させる難しさ。無事に操縦する『回天』を発進、いや発射させる事すら容易くないのだ。そして訓練の果て、任務に赴く彼ら。艦長から発射を言い渡される瞬間、操縦者の心中を様々な思いが駆け巡っていく。

 この作品は『回天』という存在だけを描くのではなく、そこに命を捧げた若者の思いも訴えかける。おそらく原作のフィクション部分となるところだが、そこは実際のエピソードが散りばめられているのだろう。野球に情熱を注いだ主人公が魔球完成に思いを寄せる姿、それだけでなく若者たちの様々な夢が虚しく消えていった。彼らの思いに反し、軍神の数は増えていく。それだけでなく、軍神になる事にしか活路を見出せなかった悲劇も描かれる。

 甲子園を優勝、しかも大学野球を沸かせた主人公。自分の投じる球に自信を持つプライドの高さが、そんな彼を演じた梨園のプリンスたる市川海老蔵に重なる。世間の噂から高飛車な印象のあった海老蔵だったが、並木浩二の心境の変化をうまく表し好演。特に出撃を阻まれた出来事を挟み、吐露する本心が痛い。回天の中で静かに眠る表情が美しくも悲しく映る。そして投じられた「魔球達成」と書かれたボールは、主人公の夢が今に甦った瞬間かもしれない。

 主人公は父の言葉を介し、戦争の大義、国同士が戦う事に対し、「お前は敵を見たことがあるか」と諭す。この作品の語りたい反戦は、消えていく若者たち一人一人の夢と笑顔の数だけ大きい。泣きを誘った「半落ち」と異なり、佐々部清監督の抑えた演出が光る。改憲、憲法第九条の存在が問われる中、この作品の頑なにストレートな主張は貴重だと思う。派手な大作ではないが、命を懸けた青春、緊張感が伝わる佳作である。

追伸.
 この作品を鑑賞にあたり、その真後ろの席に場違いな大家族が陣取った。小さい子供には不向きなテーマ、しかも夜遅いレイトショー(20:45スタート)なのに、赤ん坊は泣かすし、子供はゲームを音を立てて始め最悪。すかさず注意したが、一応父親はゲームを取り上げ沈黙、母親は赤ん坊をなだめて右往左往。いや正確に言うと、階段を上り下りし、場外へ出たり戻ったり落ち着かない。それでいて謝るひと言は無い。連れてこられた子供に罪は無いが、この夫婦のあまりの常識の無さに呆れた始末。そんな最中の鑑賞ゆえ、感動が薄れた可能性がある事を記しておきたい。また劇場も赤ん坊を入場禁止にしたり、時間帯を考えた入場と配慮が欲しい。

060916

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コメント

こんにちは。常識のない親について敏感に反応したぷくちゃんです。

皆さん、子供はしかっても、迷惑をかけた方に謝る事はしませんよね。私も以前、映画中ずっとメールをやっていた女性に殺意を覚えた事があります。(爆)

>シネマサンシャイン沼津のレイトショー

近くなので行って見たいのですが、劇場の雰囲気はどうでしょうか?

投稿: ぷくちゃん | 2006/09/17 08:39

ぷくちゃんさんこんにちは。
コメントありがとうございます。

>近くなので行って見たいのですが、劇場の雰囲気はどうでしょうか?

首都圏のシネコン並みにキレイで、映像と音に迫力がありますよ。シネコンらしく前後の席の高差があって、前の人の頭を気にする事もありません。後は観客のマナー次第...というところでしょうか(苦笑)(^^ゞ

投稿: でんでん | 2006/09/17 10:26

こんにちは♪
TBありがとうございました。
伊勢谷クン演じる隊員が「軍神にならねば云々・・」というセリフは重かったです。
死に急ぎという言葉では表せない何かがありましたね。
靖国参拝の問題も絡めて、やはり見ておかねばならない類の作品だと思います。

投稿: ミチ | 2006/09/17 10:35

ミチさんこんにちは。
コメントありがとうございます。

>靖国参拝の問題も絡めて、やはり見ておかねばならない類の作品だと思います。

靖国を語る政治家も歴史学者も今や戦後世代。この戦争の様々な代償をこの作品を通して考えてみたいです。

投稿: でんでん | 2006/09/17 10:55

でんでんさ~ん
こんにちは!
あ、いい写真ですね!いつもGoogleのイメージ検索かけてるんですがこれはありませんでした。いいなぁ、どこからの出典ですか?

出撃シーンに胸がいっぱいになりました。監督の戦争を忘れてはいけないメッセージはしっかり受け止めましたが・・・。

投稿: mimia | 2006/09/24 23:35

mimiaさんこんにちは。
コメントありがとうございます。

>いいなぁ、どこからの出典ですか?

Yahoo映画の作品紹介の写真から使いました。とはいえカラーだったので、劇中同様にセピア色に加工しています。

投稿: でんでん | 2006/10/01 23:56

TVで初めてこの映画をみてかなり泣きそうになりました。。
映画の中でもあるように、このような"事実"があった。ということの後の世に伝えなければならないと思います。最近ではアメリカと戦争したことすらしらない平和ボケした日本人が渋谷にいるようですが、、まぁそれはそれで平和になったってことですがね。

繰り返してはいけない。
と言うものの、戦争が絶える事は99.98%ない、と私は思います。むろん日本も同様だと思います。アメリカは戦争ばっかして戦争が好きなんだ。少し違います。
戦争をしないために戦争するのです。多少歴史とか勉強すれば意味がわかると思います。  なぜ軍や兵器を持つのか、その答えは"平和を望むなら戦争に備えよ"という言葉の中にあります。第一次ころのスイスがそれを物語ります。 戦争の歴史を勉強すればTVではわからない本当の"事実"が見えてきますよ  


投稿: ぺすけ | 2007/08/19 23:46

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