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2006/05/10

横山秀夫「クライマーズ・ハイ」を読む

 「ダ・ヴィンチ・コード」の後に読んだのは、横山秀夫さんの「クライマーズ・ハイ」である。実は横山さん原作の映画「半落ち」を劇場で観た後、その原作の持つ内容に心打たれた。そしてちょうどその劇場公開時にベストセラーになっていたのが、「クライマーズ・ハイ」だった。まもなく単行本を買ったのだが、仕事が忙しいのを理由に手付かず。そして、そうこうしているうちにNHKでドラマ化された。ただそのドラマはあえて観ず、やはり原作を味わいたいと今に至った。ただ読み出してしまえばあっという間に読破。まさに感情移入どっぷりの内容であった。

 1985年、日航ジャンボ機が群馬県の御巣鷹山に墜落した大事故。そんな現実の事故を起点に、新聞記者でもあった著者が挑んだフィクション小説。事故に直面した地元新聞社、編集デスク一週間の戦いを描いている。もちろん戦いといっても、彼らの武器はペン。主人公は日航デスクに任命された悠木。彼はペンだけでなく、出稿にあたっての戦い、同僚との葛藤、そして自分との戦いにさらされていく。そして「下りるために、登るんさ」山仲間であり、同僚だった安西の言葉が、その事故を回顧する悠木の心中に去来する。

 NHKでドラマ化された際、何処まで原作に忠実かは判らない。ただ原作では群馬という土地柄、政治背景を織り込み、それが悠木を惑わせていくのだが、そこでもし政治家の名前が置き換えられていたりとかすると、幻滅したかもしれない。ドラマとはいえ、NHKだけに尖った表現はできないように思える。ただそれは原作のディテールであって、この原作本来の惹きつけるものは全く別のところにある。それはサラリーマン生活をする者にとっては、痛感以上の気持を悠木に注いでしまうところだと思う。

 物語は事故が明らかにされる中、社会の縮図、それが主人公の在籍する新聞社の中で展開していく。過去のスクープに囚われた上司たち、彼らを越えようとこの事故現場に張りつく若手たち。さらに販売部門、「水爆」と呼ばれる社長、読者、そして事故に直面した中で何を伝えるべきかと葛藤する悠木。その葛藤がとにかく歯がゆい。特に何かを代替するように突き進む彼の姿、さらにある決断に至る描写は、その文章から緊迫感が伝わってくる。岐路に立たされ、最後にとった悠木の行動。偽善ではなく、彼のそうありたいと思う気持を強く感じた。

 とにかくここで描かれるのはヒーロー像ではない。どちらかといえば今の自分、いや上司等の身近な姿が重なってくることだろう。読者の際するそれぞれの立場、違いはあれども必ずそこに人間関係、そしてさらに家族の姿が見えてくる。特に悠木の息子に対する相違は、衝立岩(ついたていわ)を諦めようとした時、その思いを氷解させる出来事に直面する。そこだけに限らず、この本を読んでいると何度か涙腺を刺激された。そしてとりあえず、「もうちょっと頑張ってみるか」と元気をくれる。「クライマーズ・ハイ」は社会で揉まれる中堅社員、働くお父さんのための応援本かもしれない。

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コメント

TBありがとうございました。
横山さんの作品って一気に読ませる力が
ありますよね。
しかも短編も名手です。もし未読なら
「第3の時効」はお薦めですよ

投稿: 瑞穂 | 2006/05/17 18:39

瑞穂さんこんにちは。
コメントありがとうございました。

>もし未読なら「第3の時効」はお薦めですよ

ぜひ探してみたいと思います。横山さんの短編、楽しみになってきました(^^ゞ

投稿: でんでん | 2006/05/22 20:16

TBさせていただきました。
横山秀夫、最高ですよね。
私も第3の時効はお勧めです。

投稿: カミチョフ | 2006/06/30 23:06

カミチョフさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
「第3の時効」次の読書リストに必ず入れておきますよ!(^^ゞ

投稿: でんでん | 2006/07/24 05:56

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