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2006/04/16

街にシネコンがやってきた!「原田眞人監督 沼津映画WEEKへ行く」

0604161_1 地元沼津に本格シネコンが誕生。そのこけら落としともいうべき、初日はWOWOW制作の「自由戀愛」(ビデオ化済)、さらに翌日はキャリア初期の作品「KAMIKAZE TAXI」を携え、原田眞人監督が地元沼津に凱旋。地元NPO法人が主催、その上映とトークイベントを観に行ってきた。このシネコンは首都圏中心のシネマサンシャインで、テナントに入ったBiViというビルのオープニング日でもある。座席をネット予約するという、このど田舎には似つかわないシステムが新味。地元の老舗映画ビルも脅威と感じたのか、早々にこのシステムを真似ている。だからといってこの近辺で珍しいだけであって、その他の使い勝手と含め、普段ボクの遠征する大手シネコンと大差はない。

 このシネコンの入口フロアー、オープニングデイに加え、時期的に子供向け作品の多いせいか、人も多い。そんな中、原田眞人監督はさすが地元の有名人だけあって、人だかりも多く、写真やサインに気楽に応じてらっしゃった。監督業途中12年間、節目の4作品(「KAMIKAZE TAXI」「金融腐蝕列島呪縛」「狗神INUGAMI」「自由戀愛」)、しかも少なからず地元沼津(静岡県東部を含め)が絡んだ作品群でもある。

 「自由戀愛」は大正時代を舞台にかつての女学校の同級生、富豪の妻と妾(めかけ)、その逆転の構図が描かれていく。いつの時代も男の愚かさ、そして時代の変革期、女性の進出する姿がたくましい。現実の社会事情とラップし、どこか悲しく、またどこか滑稽なところが興味深い。二度の会食のシーンも笑える。またロケハンに力を入れたという通り、その時代性に違和感がない。沼津倶楽部という場所も登場、筆者的に馴染みはないが、松の木と松ぼっくりで何となく伝わった。妥協は制作費だけと言っていたが、本格劇場物ではないハンデの中で力作となった。

 ハセキョウこと長谷川京子、木村佳乃、そして豊川悦司の三様ぶり。中でも木村佳乃は本当に巧いなぁと思った。時代を生きる凛々しさが伝わってくる。またハセキョウは演技が一辺倒な面は否めなかったが、監督が指摘したイっちゃった顔等々、見どころとなっていた。トヨエツの役は最も時代に、そして女性に遊ばれた男だった気がする。その点喜劇的だけど、ラストの姿は物悲しい。まぁ悔しいほどイイ男なんで、そういうのもアリでしょう(苦笑)。

 なおフィルムでないDLP上映のためか、ため息が出るほど映像は美しい。特に日光の射し込みの鮮烈さが印象に残った。この感じはフィルムでは出ないし、そこが大きな違いだと思う。映像もノイズなくソリッドである。重箱に盛りつけた料理もおいしそうだった。ちなみに本作はDLP用のソースしかなく、東京とここ沼津のこの映画館でしか上映されていない。今回に限らず、今後のDLP上映が楽しみになってきた。

 翌日の「KAMIKAZE TAXI」は盟友N氏と鑑賞。この作品はN氏が遠い昔、ビデオで観ており、その推薦もあって観に行くことになった。今回上映されたのは、その海外向けディレクターズカット版である。前日はトークショーが最後に組まれていたが、今回は作品の前。ただボクのように「KAMIKAZE TAXI」が初見という人が多いため、ネタバレはご法度。「KAMIKAZE TAXI」の前作からの反省、アクシデント、キャスティング、脚本作りと触れられていく。それでも現在までに多くの原田フリークを作った原点でもあり、気になっていた。ちなみに彼の作品は「突入せよ!あさま山荘事件」を観た程度、また役者としては「ラストサムライ」がある。

 面白く思ったエピソードが「KAMIKAZE TAXI」と「コラテラル」の関係である。トム・クルーズとは「ラストサムライ」との縁(「KAMIKAZE TAXI」のビデオを渡したという)、そして「コラテラル」の脚本家と原田監督は仕事をした経緯があり、オマージュを超えた描き方に困ってしまったという。全く相似性はないと思うが、言われてみて何となくその意を強くした。予告編しか観ていなかったがマイケル・マンの「コラテラル」、比較の意味で観てみようかなぁ。

 また脚本作り、一ヶ月で七度リライトしたというのに驚いた。その一方「ラストサムライ」に出演の際、長期かけて覚えた台本を撮入一週前、大半がリライトされたという。その時は相当にパニックに陥ったそうで、役者の気持を知ったのか、本読み以降のリライトは極力避けるようになったとか。ちなみに原田組の製作方針として、撮入前に全キャストで本読みは通例との事。ただ過去さかのぼって役所広司のなりきりぶりが圧巻だったという。その点は本作を観てよくわかった。

 作品はやくざの達男が愛人を殺され、組長の武器を片手に黒幕政治家から二億円を強奪。そんな道中、ペルー育ちの日本人タクシーと出会う。その過程を追うロードムービーであり、復讐劇でもあるバイオレンス作。ブレイク前、役所のペルーなまりがまず見どころ。冒頭、(たぶん実際の)日系ペルー人のインタビューの合間、役所演じる寒竹サンの片言セリフが登場するが、顔と肌の色共々違和感はない。会えば人柄、民俗音楽が聴こえてくるような、瞬間的に組長が魅せられるのもうなづけるキャラクターである。

 元々1995年当時、Vシネマ用に作られた作品で、前後編構成になっているものを劇場用に再編集。本作は約2時間40分にまとめられていたが、長いと思うような気はしなかった。前半は達男を演じる元男闘呼組の高橋和也が主役を張り、後半に至る過程でいつの間にか寒竹サンの存在がクローズアップされていく様が面白い。そして神風よろしく、最後の復讐が粋で、そしてラストは更なるユーモアで終わっていく。作品の持つ勢いも、監督の若さ、初期の作品らしい印象を強くさせた。今の高橋は中堅で頑張っているが、役者としてのキャリアの一つに本作がある気がする。とにかくイイ感じで切れている。

 バイオレンスというと本作と北野映画の類似点は多い。徹底してバイオレンスだけを描くのではなく、その背景にある日常、あるいはユーモアが対極にあり、その果てとして暴力を描く。その描き方に大きく共感した。出生は北野映画のほうがやや先だが、それを論ずるのは無用だろう。またバイオレンス、アクション、そして冒頭からのエロティックな演出共々、原田流を強く感じた。クライマックスを含め、この作品でのアクションの見せ方も巧い。それと粋なセリフといい、ユーモアとアクションという点ではボクの好きなアニメ「カウボーイビバップ」に相通じていた。

 どのキャラクターも興味深いが、個人的には組長の亜仁丸(ミッキー・カーチス)が面白かった。ジャズとやくざの組み合わせなんて最高。そして前述のラストシーンでのセリフは、ドリフのコント並みに可笑しい。そしてそんなシーンが、その世界観から違和感を感じさせない作りが見事だった。ちなみに原田監督は地元の超有名高校出身だけにインテリ。だからやくざだろうが、タクシーの運ちゃんだろうが、そのセリフに含蓄を持たせ、しかも説明し過ぎない作り方も共感。トークショーでセリフの足し算、引き算の話を聞いたが、その実例を思い知れされた気がする。

 もちろんロードムービーの側面も面白かった。まして地元、間近のロケが含まれている。観ていて90年代というより、80年代の日本映画を観ているような穏やかさ。それがこの作品の緩急のうちの緩やかさ、気持ちよさを感じた。なお達男が墓を磨くシーンがあるが、その時彼を取り巻く風、そして磨いた墓が原田監督の祖父のもの。監督のキャリアアップはこの時吹いた神風共々、その墓磨きに始まったと苦笑していた。そんな12年の節目の最初を飾った作品、そして昨日の「自由戀愛」共々、原田節を満喫する事ができた。機会があればこの期間中、劇場で残りの二作も観たくなってきた。

 なお原田監督の話ではいまだ未発売、「KAMIKAZE TAXI」のDVD化(ビデオ時のバージョンを含め)を進めているらしい。ただそんなに待っていられないボクはすかさずアマゾン、いやAmazon.comで輸入盤をポチッと押してしまった。さすが国際的に評判の高かった本作、北米盤はあったのですねぇ。リージョン1が観られる環境様々である。また沼津映画WEEKはこの沼津シネマサンシャインで21日金曜まで。明日の月曜日以降、「KAMIKAZE TAXI」が観られるチャンスは4回。アクションものの好きな静岡県東部周辺の諸氏、ぜひご覧になる事をオススメしたい。

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