静岡シネギャラリーで「クラッシュ」を観る(ネタバレあり)
今日は本年度米アカデミー作品賞を受賞した「クラッシュ」を観てきた。しかも近場、静岡県東部地区での劇場公開はない。そこで静岡市にある静岡シネギャラリーへ遠征。約一時間、東海道線ひとり旅の果て、朝一回目の上映に間に合わせた。ミニシアターとなると、大昔銀座シネシャンテで「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」を観た頃が思い出される。ただこの静岡シネギャラリーはそんな派手な大きさの映画館でなかった。客席も三十人入れば十分という大きさ。座席中段でも、画面に対し頭を上向きで鑑賞しなければならないが、本作「クラッシュ」の内容に惹かれ、作品が始まるとまもなく、全く気にならなくなっていた。
まずこの作品はアメリカ、そして人間の持つ嫌な面ばかりを見せられる。ちょうど劇場版「エヴァ」を観た時と同じ印象を与えていた。しかし両作品に共通、嫌なものの中から与えられる光明があるわけで、そこにこの作品の持つ意義を感じる。もちろんテーマ、言いたい事はこの二作で全く違う点は付け加えておく。「クラッシュ」、この作品のテーマは偏見の連鎖。ただ主な登場人物の中、本当の悪人というのは出てこない。それぞれが悩み、だが事実を受け止めて尖(とが)って、あるいは妥協して生きている。その最たるはマット・ディロン演じる警官の存在。職務質問中に言いがかりをつけ、その相手の妻を辱めてしまう。だがその一方、生死の境で再会した時、その影は微塵も無かった。間違いなく差別と偏見を理由に、彼は日常から逃げていたからだ。救出後、爆風の中でたたずむ彼の姿が何とも感慨深い。痛快さや優美さを求める大作ではないが、群像劇、人間ドラマとして、観ている観客の気持をつかむ魅力に溢れている。
そして興味深かったのが、犯罪都市ロサンゼルスを描く中、放たれた弾丸はわずか二つだったという事。銃をバンバン撃ちまくる映画ではないのだ。しかもその一つは少女の背中へ、もう一方はラレンツ・テイト演じるギャングに。しかしその顛末は大きく違っていた。実は偏見の連鎖を複雑にしているものは、この銃社会というアメリカの恥部だったという事。かたや衝動的な行動は一つの愛に助けられ、一方では反射的な行動が悲劇を生んでいく。実は銃社会に対する警鐘が、この作品の隠されたテーマだと気づかされる。
そもそも偏見や差別の無い世界なんてあり得ないのだ。偏見の無い世界を求めるのなら、それは偽善と言わざる得ない。でも、たとえ偏見と分かっていても、我々は生きていかなければならない。映画のエンディング、登場人物たちが至る大団円、そうした作者の気持が込められている。そしてもう黒人、白人の違いだけの時代ではない。この作品で描かれた、さまざまな人種間が関わった偏見はまだまだ消えそうに無い。そうした状況へのアピールも込められていると感じた。
さて、静岡シネギャラリーは今後「ホテル・ルワンダ」「ヒストリー・オブ・バイオレンス」と観たい作品が続いていく。ちょうど年度末、募集中の年間会員になろうかと迷ったが、こちら東部でも観られる可能性は少しだけある。電車で往復一九〇〇円に考えされられた。とりあえず上映カレンダーだけを手にこの劇場を後にした。
映画館を出ると静岡駅の駅ビル・パルシェで昼食。ここでは旭川ラーメンを食べてみた。ここは一風堂、河原成美さんプロデュースのお店らしい。同じ傘下の尾道ラーメンと店が並び、どちらにするか悩んだが、何となしに旭川のほうに並んだ。潜在的な北海道好きが選ばせたのだろう。しょう油味ながら、あっさりととんこつのコクがあって美味しい。スープを飲み干していた。そして店は手狭な感じながら、活気があっていい。次は「ホテル・ルワンダ」あたりで来ようかな、と思っている。

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» 触れ合いたい 「クラッシュ」 [平気の平左]
評価:80点{/fuki_love/}
クラッシュ
こういう映画大好きです。
群像劇で、キャラクターが多いのですが、それぞれのキャラクターが十分にわかり、また数々の伏線が張られています。
さすがアカデミー賞にノミネートされるだけのことはあるといった感じでした。
大本命の「ブロークバック・マウンテン」があるので、「最有力!」はちょっと言いすぎだと思いますが、「大穴�... [続きを読む]
受信: 2006/03/19 10:38
» 『クラッシュ』 [ラムの大通り]
----この映画って、ものすごくたくさんのスターが出ている割には
なぜか地味な感じがするよね。
「内容が内容だからね。
プレスに載っている解説を引用すれば
『ハイウェイで起こった1件の自動車事故が、
思いもよらない“衝突”の連鎖を生み出し、
さまざまな人々の運命を導いていく…』となる」
----ふうん。カッコいいフレーズ。
でもニュアンスは分かるけど、
いったいどういう映画なのかが�... [続きを読む]
受信: 2006/03/19 11:44
» 映画「クラッシュ」 [いもロックフェスティバル]
観て良かったと思える、そしてもう一度観たいと思える作品。 『クラッシュ』・・・ [続きを読む]
受信: 2006/03/19 12:27
» クラッシュ [シャーロットの涙]
連鎖する衝突。そこから繋がっていく人の運命。
ロサンゼルスは孤独な街。人種によって居住区が分かれているこの街で、偶然の事故が人種を絡ませる。そして差別偏見を浮き彫りにさせる。
監督はミリオンダラーベイビーの製作脚本でアカデミー賞ノミネートされたポール・ハギス。この作品で監督デビューを果たす。
この作品には主人公と断言できる人物がいない。逆を言うと誰しもが主人公。短い上映時間の中でその人物達の性格と思考を簡潔に... [続きを読む]
受信: 2006/03/19 12:56
» クラッシュ(映画館) [ひるめし。]
それはあなたも流したことのあるあたたかい涙
CAST:サンドラ・ブロック/ドン・チードル/マット・ディロン/ジェニファー・エスポジート/ウィリアム・フィクトナー 他
■アメリカ産 112分
本年度アカデミー賞主要5部門ノミネートしている本作。そういうコトなんでかなり期待しちゃっての観賞〜。
なんとも衝撃的な作品で人と人との繋がりが上手く描いた群像劇。ちょっと前に観た「ホテル・ルワンダ�... [続きを読む]
受信: 2006/03/19 13:04
» クラッシュ(05・米) [no movie no life]
「交通事故に気をつけよう」とか「人種差別をやめよう」と言う映画ではない。
交通事故や犯罪が多発するロサンゼルス。人種のるつぼ。
そこで生きていくには、刑事も、検事も、TVディレクターも、医師も、小さな店の経営者も、鍵の修理人も、若者も、常に自分が○○人で... [続きを読む]
受信: 2006/03/19 16:56
» クラッシュ [カリスマ映画論]
【映画的カリスマ指数】★★★★★
ぶつかって傷ついて・・・そして生まれる人間愛
[続きを読む]
受信: 2006/03/19 17:24
» クラッシュ / CRASH [我想一個人映画美的女人blog]
"サンドラブロック主演"ではありません。
クローネンバーグのでもありません☆
豪華キャストたちが織り成す、人間ドラマ{/hikari_blue/}{/hikari_blue/}
「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本/製作でアカデミーノミネートされた、
ポール・ハギスが脚本&初監督したこの作品、5月に全米公開されて
9月にはドーヴィル映画祭でグランプリ、先日のゴールデングローブ賞、
脚本賞&助演男優賞ノミネート(マットディロン)
アカデミ�... [続きを読む]
受信: 2006/03/19 19:51
» 「クラッシュ」 [the borderland]
キャスト知らずに観たら、またまたドン・チードル出てました。
最近では「ホテル・ルワンダ」、「ダイヤモンド・イン・パラダイス」に続き3作目。シリアスな役からコメディタッチまで、いつも存在感ありますね。モーガン・フリーマンの後を継ぐのは彼しかいない?!
この人種差別尽くしの物語はアメリカの縮図なのか?
言葉が分からない訳ではない。黒人も英語は喋る。話せばわかるという言葉は、アメリカにはないんじゃないかと思ってしまう。人によって大小はあっても、人種差別というものが生活に根付いているんだなぁと。ア... [続きを読む]
受信: 2006/03/19 22:29
» クラッシュ・・・・・評価額1800円 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
観ている間、自分が映画の登場人物であるかの様な、不思議な感覚で物語に感情移入していた。
この映画は、アメリカの移民社会に暮らしたことのある人間には、まさしく人生に縮図のよ [続きを読む]
受信: 2006/03/20 01:47
» ★「クラッシュ」 [ひらりん的映画ブログ]
2/11劇場公開の「クラッシュ」を初日ナイトショウで見てきました。
結構知ってる人が出てるから楽しみだった。
アカデミー賞にも6部門ノミネートされてるし・・・。
[続きを読む]
受信: 2006/03/20 02:37
» クラッシュ [悠雅的生活]
ぶつかり合う 人間たち [続きを読む]
受信: 2006/03/20 21:40
» ■クラッシュ [ルーピーQの活動日記]
クリスマス間近のロサンゼルス。深夜のハイウェイで黒人刑事のグラハム(ドン・チードル)は、相棒で恋人でもあるスペイン系のリア(ジェニファー・エスポジト)と追突事故に巻き込まれる。そこで彼は、偶然事故現場近くで発見された若い黒人男性の死体に引き付けられる・..... [続きを読む]
受信: 2006/04/02 23:30
» 『クラッシュ』 [ストーリーの潤い(うるおい)]
「この世から犯罪をなくす方法は二つ。ひとつは、この世から人間をなくすこと。もうひとつは、刑法などの法律をなくし、『犯罪』という概念をなくすこと」
と同じように、
「この世から差別をなくす方法は二つ。ひとつは、この世から人間をなくすこと。もうひとつは、『差....... [続きを読む]
受信: 2006/04/03 04:28
» クラッシュ ★★★★★ [Gachami の映画と日記のページ]
こんなふうに人種問題に真っ向から向き合っている映画は、私は初めて見た。
こういう映画が好み。社会問題について考えさせながら、心も揺さぶられる。ハートもお脳も満足する映画。
冒頭の追突事故から、時間は1日前に戻り、そこから一見何も関係がないように見えるエピソードの羅列。でも、そのエピソード達は、端っこで少しずつ、少しずつ絡み合って、最後にまた冒頭の追突事故まで戻ってくる。そこで全てのエピソー�... [続きを読む]
受信: 2006/04/15 01:32
» クラッシュ [ネタバレ映画館]
やっと見れた。オスカー授賞式が発表されてから観ると、最後の「中国人め!」という台詞をアン・リーがどう感じたのか興味あるところです・・・ [続きを読む]
受信: 2006/05/06 12:11
» 『クラッシュ』 [mimiaエーガ日記]
★★★★☆原題:『 CRASH 』クリスマスムードのロサンゼルス、移民の国アメ [続きを読む]
受信: 2006/05/07 16:12
コメント
TBありがとうございます。
「遠征」されたのですね。おつかれさまです。
私は幸運にも地元で見れましたが、作品の奥深さ、人間の本質に迫った内容は素晴らしいと思いました。
銃が2発のみとは、気付きませんでした。ホントに、対照的な描かれ方ですね。
「ホテル・ルワンダ」はこれから上映です。こちらも楽しみにしたいと思います。
投稿: カオリ | 2006/03/19 17:01
カオリさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
>ホントに、対照的な描かれ方ですね。
銃声に限らず、セレブと貧困層など、この作品で描かれる人生の全てが対照的でした。でもだからこそ、その事実を受け止めなければと思いました(^^ゞ
投稿: でんでん | 2006/03/19 18:39
こんばんは。トラバどもです。
私は月2回ほど静岡に行ってるのですが、
静岡シネギャラリーは初めて知りました。
泊まりの時は、早目に仕事切り上げて
行ってみます(^^)
投稿: カヌ | 2006/03/19 22:32
カヌさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
>静岡シネギャラリーは初めて知りました。
外は芸術的、中はいかにも静岡みたいな(苦笑)。でも以外に近場に思えたし、映画を観るならオススメのスポットですよ(^^ゞ
投稿: でんでん | 2006/03/21 20:42
でんでんさん、今晩は☆
多数いる登場人物それぞれがキチンと描かれていたことで、二時間引き込まれて観ていました。
作品で語られる偏見も差別もその他の問題も、容易く解決するようなことでもなく。
またどこかで同じような事が繰り返されていくであろう事に遣るせなさを感じながらも、「透明マント」のくだりでは救われた気分でした。
微かでも希望はあるんだなぁ~と。
「ホテル・ルワンダ」自分は見逃してしまいました。><
こちらでもドン・チードルが出ているんですよね~。
投稿: ルーピーQ | 2006/04/02 23:32
TBありがとうございました!
こちらからも何度かさせていただいたのですが、反映されていませんね...
スミマセン。また挑戦してみます。
もう一回みようかな~と思ったくらい気に入りました。
投稿: Gachami | 2006/04/03 00:53
ルーピーQさん、Gachamiさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
ルーピーQさんへ
>「ホテル・ルワンダ」自分は見逃してしまいました。><
地元、とはいえ1時間掛かりますが、来週末から公開なので、ぜひ観に行きたいと思ってます。やっぱヒューマンドラマが観たいです(^^ゞ
Gachamiさんへ
>もう一回みようかな~と思ったくらい気に入りました。
どうもココログのシステム改編が原因のようです。大変申し訳ありません
投稿: でんでん | 2006/04/03 21:54
やりました!TB再挑戦してみたら、出来ました~。お騒がせしてスミマセン!
私も「ホテル・ルワンダ」見てません...DVDで絶対見ます。
これからは「グッドナイト&グッドラック」が楽しみです。社会派では全然ありませんが、「プロデューサーズ」も見るつもりです!
投稿: Gachami | 2006/04/15 01:38
Gachamiさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
TBの件、大変失礼しました。
これからの作品群、楽しみなものばかりですね。アタマもハートも満足する映画がやっぱいいですよね(^^ゞ
投稿: でんでん | 2006/04/15 14:39
偏見や差別の無い世界なんてあり得ないのかもしれないけど、言い切ってしまうと淋しいかな~。そういう世界を夢見たっていいじゃない、なんて理想主義だね~私…。
でんでんさ~んごめんなさい、TB2つもしてしまいました。送信したはずがうちのTB欄にアドレス残ってたんですよね~何故でしょう?1個削除してくださ~い。
投稿: mimia | 2006/05/08 10:31
mimiaさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
>そういう世界を夢見たっていいじゃない、なんて理想主義だね~私…。
いいんじゃないんでしょうか(^^ゞ想う事、信じる事ってやっぱありですよ。そうでなくては人生やり切れませんから。この作品では「透明マント」が物語ってますね。
投稿: でんでん | 2006/05/08 23:13