あれから五年...「スピーカー工作の愉しみ」に思う
本屋で立ち読みしていたところ、「STEREO」誌に目がいった。考えてみれば七月号の時期、スピーカー工作の特集の頃合いである。いつもなら毎年言われなくとも気がついて、スピーカー工作の特集の号を買っていくのだが、今年は発売から半月経ってやっと気がついた次第。特に我が心の師、長岡鉄男さんが亡くなって以降、「STEREO」誌を読む事が少なくなった。この間「FMファン」も無くなった。そう、亡くなってから五年経っていた事に気がついた。
「スピーカー工作の愉しみ」は長岡さんに教えてもらったようなものだ。コンポを組む上で音の出口はスピーカー。実はオーディオを始めて、最も混迷を極めたのがスピーカー選びだった。約十五年前、初めて買ったのがパイオニアのS-55TWIN。まだその頃スピーカーというと598と呼ばれる価格帯、ドンシャリな音作りがウケていた頃だった。そんな中、S-55TWINは『音場感と定位』を武器に、バーチカルツインという形を定着させた。
だがその『音場感と定位』ってヤツがクセモノだった。それ以前に理解する知識と経験が無く、正直その言葉をよく判っていなかった。間もなくサブに同じパイオニアのS-101Customを買ったのもそのため。だが今思えばそれを実感するのに、あまりにも部屋がヤワ過ぎた。部屋もオーディオの重要なコンポーネントの一つなのだが、ヤワな部屋の支配力がスピーカーの音場感を上回り、十分な効果を得るに至らなかったという事。音とは、スピーカーとは何か、迷走していた時期だった。
そんな時に出会ったのが長岡さん設計のD-101aスワン。自作スピーカーの世界は知っていたが、メーカー製とは違う世界に疑問を持っていた。頭の中ではメーカー製=優秀、自作=やや落ちるという思い込みが占めていた。でも『見る前に跳べ』と父の手を借りて作る事になる。そして音を出した瞬間、目から鱗が落ちた。小径ユニットから出る音とは思えない音。部屋に勝つ、スピーカーの持つ支配力を初めて思い知った。その後、自作スピーカーの魅力にハマり、今のスーパースワンに至っている。
そしてあの日から五年経った。スピーカー工作も久しくやっていない。いやそれ以上に取り組むビジュアルもオーディオも迷走している。いやそればかりか、自分のありとあらゆる出来事に迷走している。昔は困った時に長岡さんの激辛コラムがあった。オーディオばかりでなく、世間を見つめる冷静な視点と言葉。心のカンフル剤、とても刺激になった。実は部屋の奥、買ってあるフォステクスのスピーカーユニットが眠っている。今年の夏こそは久しぶりにスピーカー工作をしようか。スピーカーに限らず、モノ作りをしていると無心になれる。今、最も必要なのはそんな時間かもしれない。
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