今こそ「太陽を盗んだ男」に学ぶ
山口県の某高校で起こった爆弾事件。手製の爆弾を恨みを持った隣クラスに投げ込み、58人をけがさせた。「ネットで作り方を学び、犯罪を起こす」、最近多い事件の一つだが、これだけ刺激ある情報が氾濫した世の中、何が呼び水になっているかわからない。事件のきっかけだけに、ネットの功罪はこれからも論議されるだろう。いずれにせよ、ネットは簡単に心の痛みを作っても、体を傷つける痛みは自ら探さなければ教えてくれない。
1970年代、城戸誠という男がいた。中学教師である彼は、東海村にある原子力発電所に潜り込み、プルトニウムを強奪。自らそのプルトニウムを精製し、原子爆弾を作り上げた。そして誠は原子爆弾を盾に日本政府へ破天荒な要求を提示したのだった。これはレナード・シュナイダー、長谷川和彦が生み出した映画「太陽を盗んだ男」の主人公である。彼も夢潰えた生活の果て、原子爆弾作りを勤しむ事になる。そんなこの映画の中には、陽(+)のエネルギーが満ち溢れている。
冒頭、爆弾事件を挙げてみたものの、確かに絵空事と現実の大きな違いはある。しかしこの作品にはいろいろ思い知らされる点が多い。
「お前の殺していい人間は、お前たった一人だ」
菅原文太演じる山下警部が放つこのセリフが、全ての犯罪の根源を言い表している。しかも城戸誠の行なうのは無差別殺人。だが数の問題ではない。犯罪を犯した者こそ、自らが天罰を受けるべき。だが彼は身をもってその恐ろしさを知る事になる。そしてそのエネルギーの暴発はラストの描写に帰結する。
もしここにリアルさを求めるのであれば、冒頭に挙げた爆弾事件と同じになってしまっただろう。作品中そこに至るまでの経緯、70年代のエネルギーは破天荒だったかもしれないが、長谷川和彦の描いたラストはとても大人だった。きっとこの作品を観た人ならその意味は判るはず。人間ならもっと想像力を働かせて学ぶべきだ。20年前の作品だが、そんな若い世代にこそこの作品の持つエネルギー、描いたテーマを多くの人に感じて欲しい。
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