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2005/03/09

岡部騎手引退に想う

 あの岡部幸雄騎手(以下敬称略)が現役引退すると、一部マスコミで報じられた。ボクはそんな事を露知らず、観終わった「24(Twenty-Four)1st Season」の感想でも書こうと思った矢先、UMAPのS氏から「東スポを見たか?」とその一報を受けた。驚きと同時に、何となしにそんな時期が近いうちに来るのだろうと思っていたのも事実。ただ思い起こせば、競馬を始めて岡部無くして、今の自分は無かったと感じる事も少なくない。それ程、競馬を少しでも知る者には影響力のある人だった。

 競馬を始めた頃、岡部を先生と呼ぶ友達たち。岡部無くして当たり馬券にならない。当時、武豊はまだ若手だった頃で、関東のベテランは岡部、柴田政人、小島太、関西では河内洋、南井克己、田原成貴らが台頭。まだ短期免許、外国人騎手が来ていない時期、年間100勝がある意味、トップジョッキーの証だった頃でもある。もちろん関東のトップは岡部。岡部が乗ればレースも締まる。乱ペース、超スローでなく、淀みないペースで流れていった。さらに蛯名正義、柴田義臣、田中勝春、橋本広喜らが岡部ラインとして、彼に学ぶ若手として集っていた。ちなみに競馬で競輪におけるラインは存在せず、あくまで指導を請う先生であった。

 だからこそ馬券を買う上でも先生である。もちろん岡部はトップジョッキーであるから、有力馬にも乗る。それだけ当たり馬券に最も近い存在となる。しかし豪快な差し切りというイメージは無い。先行、好位差しという、一見面白みの無い騎乗である。ただ岡部が大事にしてきたのは「馬優先主義」という事。馬に負担を掛けず、しかもレースのたびに馬に教育を行っていく。競走能力と気性をコントロールする事は紙一重。その点、東西の調教師たちは岡部に騎乗依頼し、トップホースに導かれていた。あのシンボリルドルフも岡部無くして三冠はあり得なかったかもしれない。またビワハヤヒデ、タイキシャトル、シンコウラブリイ、ジェニュインとお手馬を挙げていくだけで、如何に馬券に絡んでいたかがわかるだろう。

 そんな岡部に転機が訪れたのが2002年の暮れ。有馬記念に騎乗した後、オーバーホールの名目で競馬界を離れた。そして昨年の二月、坊主頭で久々の勝利を収めた岡部。その目には涙があふれていた。自分も含め、多くのファンは復活にもらい泣きした。そしてその時の騎乗馬は、のちの桜花賞馬ダンスインザムード。しかし桜の舞台、鞍上に岡部はいなかった。クラシック競走で唯一、勝っていない桜花賞で、絶対の有力馬を逃す事になる。先を見据えた陣営は迷わず、武豊を選んだ。岡部の心中を察する事ができないが、おそらくプロたる気持が先立ったのではないか。ここにも岡部の「馬優先主義」を感じる。

 岡部で印象に残ったレースというよりその背景。まずトウカイテイオーで勝ったジャパンカップ、そしてトウカイテイオーに負けたビワハヤヒデでの有馬記念。自ら手掛けたルドルフの子で念願の勝利。しかも国際GI元年である。あの当時、岡部は番組キャスターだった明石家さんまに向かって「たくさん儲かりましたか?」と興奮して語っていた。一方、その一年後、ビワハヤヒデの鞍上にいた岡部は「唯一負ける可能性があるとすれば、テイオー」と有馬記念の戦前に公言。結果は岡部にとって痛し痒しだっただろう。しかし結果が全ての世界。その酸いも甘いも感じたのが先の二つのレースなのである。

 さて週刊ギャロップに「馬優先主義」の連載を持つ岡部。一昨年以来、復活を目指す中、「完調までまだまだ」という言葉が何度か書かれていた。また復活を果たした後も、重賞勝ちはなく二着へ持ってくるのが精一杯。かつての岡部の姿はなかった。しかし競馬を見る目は今だ衰えず。先の「馬優先主義」のコラムを読んでも、鋭い指摘が多い。かねてから調教師ではなく、騎手の育成を明言してきた岡部。その後の活動にも期待したい。

 最後に岡部のお茶目なエピソードを一つ。五才(現在の四才)でジャパンカップを勝ち、六冠目を制したシンボリルドルフ。春の天皇賞を勝った時点、岡部は鞍上で右手を開き、五本の指を立ててその強さを誇示した。しかし六冠目となれば、六本目の指が欲しい。岡部は迷わず、空いた片手の指を一本重ねて六冠目を表し、その姿は何処か微笑ましかった。もちろんその後勝った有馬記念では両手を使って七冠を示したのはいうまでもない。

050309
      ジャパンカップ表彰式での岡部騎手

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